最新記事

イギリス

エリザベス女王も巻き込む移民問題

エリザベス女王は、国の発展に貢献する外国人だけを歓迎し、それ以外の者は受け入れないという不寛容な政策を読み上げた

2013年5月9日(木)17時41分
コリーン・パーティル

陛下のスピーチ 伝統的な儀式の中で行われた演説だが、中身はサッチャリズムさながら Toby Melville-Reuters

 移民規制の強化、民間活力の活性化、福祉の見直し――これが8日に始まったイギリス議会の開会式でエリザベス女王が行った施政方針演説の内容だった。

 開会式はイギリスでは極めて大がかりな年間行事で、議場内は金がふんだんに飾られ、女王はきらびやかな王冠をかぶり、おごそかに儀礼が行われる。

 この施政方針演説は政府が起草し国王が読み上げるものだ。ここで示された多くの施政方針の中で、最も注目されたのが移民規制だ。

 2日の地方選挙で反移民を唱える右派のイギリス独立党が躍進したのを受け、施政方針演説では政府が提出する予定の「国に貢献する移民を歓迎しそうでない者は排除する」ための法案に触れるだろうと見られていた。

 演説では具体案には触れなかったものの、間もなく提出されるこの法案が通れば、EU(欧州連合)域内からの移民でも国民健康保険などの社会保障の恩恵が制限される。不法移民対策として、大家は借り手の在留資格の確認を義務付けられることになり、国外退去処分の手続きも簡素化される。

 演説では保育、高速鉄道、アスベスト被害者への補償といった国内問題にも多く触れられた。高齢のエリザベスがこういった問題を読み上げるのは大変なことと思う。「演説の起草者は『アスベスト被害による癌』と書くことで女王が『メゾシリオーマ』(中皮腫)という発音しづらい用語を用いないで済むようにした」とアンドルー・スパローはガーディアン紙で書いた。

「わが政府が最優先すべきはイギリスの経済競争力を強めることである。そのために、政府は民間部門の成長、雇用と機会の創出を手助けする」とエリザベスは読み上げた。マーガレット・サッチャー元首相が健在であれば鼻高々であっただろう。

「わが政府は一生懸命働く人が報われる経済を打ち立てることを約束する。福祉を見直し続け、人々が福祉から自立して働く手助けをする」

 政府は「懸命に働く人が報われる公正な社会を促すことに努める」ともエリザベスは読み上げた。女王自身は世襲で王位に就いたはずだが......。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国の1─4月鉄鋼輸出は過去最高、関税見越した前倒

ワールド

台湾総統、新ローマ教皇プレボスト枢機卿に祝辞 中国

ビジネス

景気一致指数3月は前月比1.3ポイント低下、4カ月

ワールド

中国レアアース輸出、4月は前月比-15.6% 輸出
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 7
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中