最新記事

災害

日本より怖いアメリカのインフラ危機

道路も送電網もとうに耐用年数を過ぎたものばかりなのに、整備に投じる資金はヨーロッパの半分以下

2012年12月10日(月)17時14分
デービッド・ケイ・ジョンストン

交通網寸断 豪雨に見舞われて道路が崩壊することも(バーモント州、2011年) Andrew Kelly-Reuters

 大型ハリケーン「サンディ」により深刻な被害を受けた米東部ニューヨーク州とニュージャージー州。地元の政治家たちは復旧と復興を有権者に強く誓い、道路や堤防、鉄道、水道、電気、通信網などの官民のインフラ整備を推し進める方針を打ち出した。

「同じ過ちを繰り返し、市民と州が再び壊滅的な打撃を被ることは許されない」と、ニューヨーク州のアンドルー・クオモ知事は本誌に語る。

 しかし厳しい財政状況の下で、本当に大掛かりな公共事業に踏み切れるのか。インフラ整備を実行すれば、増税や公共料金の引き上げがおそらく必要になる。

 それでも、自然災害は必ずまた起きる。再び大惨事を招かないためには、今すぐインフラ整備に着手する必要がある。現在アメリカでインフラ整備に投じられている資金は、GDPの2・4%程度にとどまっている。

現状維持のコストだけで年間4400億ドル

 ヨーロッパでは、この数字が5%に達している。おかげで、ドイツで道路が穴だらけということはまずないし、フランスで市庁舎が雨漏りすることも少ない。国土の多くが海面より低いオランダでも、防潮堤や水門が整備されているので、国民は安心して暮らせる。

 アメリカがインフラ整備を怠り続ければ、ダメージは自然災害による打撃にとどまらない。アメリカはグローバル経済で後れを取りかねないと、ニューヨークのマイケル・ブルームバーグ市長は指摘する。「連邦政府が直ちに行動しなければ、未来の世代の雇用と人命、そして機会が失われ、アメリカは途方もなく大きな代償を払わされるだろう」

 こうした警告は、アメリカ土木学会(ASCE)も以前から発している。同学会によれば、アメリカのインフラの充実度は5段階評価で下から2番目。今あるインフラを維持するだけでも、投資を現状より年間4400億ドルも増やさなければならないという。国民1人当たりにして月額100ドル以上の金額だ。

 大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤングは最近発表した報告書で、アメリカに公衆衛生上の惨事が差し迫っている可能性を指摘している。

 この報告書によれば、下水処理施設が老朽化しつつあるのに、連邦政府や州政府、地方自治体は新しい施設を造るための予算を拠出していない。その結果、アメリカではいまだに、国の人口が現在より1億人少なかった時代に建設された下水処理施設を使い続けている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米イールドカーブはスティープ化か、対FRB圧力で=

ワールド

PIMCO、住宅市場支援でFRBにMBS保有縮小の

ワールド

トランプ氏が英国到着、2度目の国賓訪問 経済協力深

ワールド

JERA、米シェールガス資産買収交渉中 17億ドル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが.…
  • 8
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 9
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中