最新記事

債務危機

仏国債格下げでサルコジ「撃沈」

「トリプルA」の死守にこだわった戦術ミスが響き大統領選目前にサルコジがライバルの集中砲火を浴びている

2012年2月22日(水)14時48分
トレーシー・マクニコル(パリ)

聖女頼み? ジャンヌ・ダルクの生誕600周年記念式典に出席し、「救国の乙女」の胸像を受け取るサルコジ Reuters

 フランスのニコラ・サルコジ大統領にとっては、何とも不吉な13日の金曜日だった。米大手格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)は今月13日、他のユーロ圏8カ国と共にフランスの国債格付けを引き下げた。

 格下げ発表の日は、4月22日に予定されるフランス大統領選の第1回投票日のちょうど100日前。これでヨーロッパ第2の経済大国は最上級の「トリプルA」を失い、国債の評価は1段階下の「AA+」になった。さらにS&Pは、長期国債の格付け見通しを「ネガティブ(弱含み)」とした。

 S&Pの発表以前から、複数のエコノミストは市場は少なくとも部分的に格下げを織り込み済みだと指摘していた。ドイツとの記録的な金利差を根拠に、フランス国債は既に格下げされたも同然だという声は、昨年11月から出ていた。

 それでも、サルコジにとって政治的打撃になったことは明らかだ。ライバルの政治家たちは、ここぞとばかりに苦境の大統領をたたき、現政権の「失敗」を強調した。

 ある意味で、このサルコジたたきはサルコジにとって「身から出たサビ」と言えなくもない。サルコジが5月に行われる大統領選の決選投票で再選を果たすとしても、かなり苦労するだろうと、政治アナリストは言う。

 当初、「トリプルA」の維持を譲れない一線と位置付けていたことは、サルコジと中道保守の与党・国民運動連合(UMP)の重大な戦術ミスだったとみられている。与党側はそれによって緊縮財政を正当化し、「責任感の薄い」ライバルに対する有権者の懸念をあおる材料として格下げリスクを利用した。

メルケルの尻に敷かれて

 最大野党・社会党のフランソワ・オランド前第1書記が同党の大統領候補に決まった10月、フランソワ・バロワン財務相は、社会党政権になれば「フランスの格付けは2分以内に引き下げられる」と警告。

 ところが「トリプルA」からの転落が現実味を帯びてくると、サルコジと与党は態度を一変させ、格下げは大した問題ではないと主張し始めた。サルコジは1カ月前、「新たな困難が生じたが、克服できないものではない」と発言している。格下げ発表の夜、全国放送のニュース番組に出演したバロワンは、社会党の反応を批判してこう言った。「冷静になるべきだ。この問題で国民の恐怖心をあおらないようにする必要がある」

 S&Pの格付け見直しは、盛り上がりに欠ける選挙戦の本格的スタートを告げる号砲になるかもしれない。これまでは経済の先行き不透明感を背景に、奇妙なほど静かな序盤戦だった。サルコジが再選を目指すのは確実視されているが、出馬宣言はまだ。一方、オランドも大統領選の政権公約をまだ発表していない。

 S&Pの発表が本格的な選挙戦の幕開けになった場合、有利なのは社会党のオランドなのか。それとも有権者は安全策をとって「なじみのある悪」、つまり現職のサルコジを選ぶのか。

 サルコジは大みそか恒例のテレビ演説で、「市場も格付け会社も」政府の代わりの決断を下すことはないと国民に語った。だが、それ以前に私的な場で語った「トリプルAを失えば私はおしまいだ」という発言が既に広まっていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、イスラエル首相と会談 イラン核巡り「決

ビジネス

1月米雇用、13万人増と1年超ぶり大幅増 失業率4

ワールド

米テキサス空港の発着禁止解除、対無人機システム巡る

ビジネス

26年度の米財政赤字は1.853兆ドルに拡大の見通
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 6
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 7
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 8
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 9
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 10
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中