最新記事

アフガニスタン

米政府が育てた銃も撃てないど素人警察

11年7月からの米軍撤退に備え、8年の歳月と巨費を投じて育ててきたはずのアフガン警察だが、実態はろくすっぽ銃も撃てず武器の横流しや麻薬取引で腐敗したダメ集団。「国民に信頼される警察」作りはなぜ失敗したのか

2010年5月20日(木)16時08分
T・クリスチャン・ミラー(米調査報道機関プロパブリカ記者)、マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)、ロン・モロー(イスラマバード支局)

質より頭数? たった8週間の訓練期間はさらに6週間に短縮された(2010年5月、カンダハルで射撃の訓練をする警察官) Nikola Solic-Reuters

 モハマド・モキム警部(35)はいら立っていた。目の前ではアフガニスタン警察(ANP)の訓練生たちが、腹ばいになってAK47自動小銃を構え、50メートル先の標的を狙っている。だが、まずまずの腕前な訓練生は数えるほど。大抵は射撃どころか、銃弾の再装填にもてこずる始末だ。

 モキムは訓練生に交代を命じ、ため息をついた。「まったく進歩がない」。キャリア8年、ANPではベテラン格のモキムは言う。「指示を聞かないし、規律はないも同然。こいつら、永遠に本物の警官にはなれない」

 射撃が下手なだけならいい。ヘルマンド州のイスラム原理主義組織タリバンの司令官サレハ・モハメドによれば、タリバンが使う弾薬の多くは警官からの横流しだ。警官が持ってくる銃弾や携行式ロケット弾のほうが、地下市場に出回っているものより安くて品質もいいのだという。

 タリバンの勢力圏に送り込まれた警官たちが、大量の弾薬を必要とする理由をでっち上げるのは簡単だ。そもそも、彼らを監督する立場の人間はほとんど現場に近づかない。時には警官部隊とタリバンが偽の銃撃戦を繰り広げることもあるらしい。そうすれば、弾薬の大量注文をいぶかる上層部が調べに来ても、住民たちは銃撃戦があったと証言するからだ。

 アメリカは02年以降、60億ドル以上を投じてアフガニスタンにまともな警察をつくろうとしてきた。警察学校を建て、民間軍事会社を雇って訓練に当たらせてきたが、結果は散々だ。米政府の監査によると、これまでに警官の訓練費用として民間の請負会社から請求され、承認された経費は総額で3億2200万ドルを超える。だが、その使途は極めて不明瞭だ。

住民の不安は警察が戻ること

 オバマ政権でアフガニスタン・パキスタン担当の特別代表を務めるリチャード・ホルブルックも、ANPを「腐敗だらけの欠陥組織」と呼んではばからない。昨年オバマ政権がアフガニスタン政策を見直したときも「駐留米軍の規模を別にすれば、この問題に最も関心が集まった」と、ホルブルックは本誌に語っている。

 警察部隊の充実は、米軍のアフガニスタン撤退計画に欠かせない要件だ。アメリカの支持するカルザイ政権が真に国民の支持を得るためには、何よりも国民生活の安全確保が必要だ。しかし国連が昨秋までの1年間にわたって実施した調査では、国民の半数以上が警官の腐敗を指摘した。警察署長が麻薬取引に関与した例もある。昨年7月には首都カブール近郊の住民が、地元警察による恐喝やレイプを米海兵隊に訴えている。

 つい最近までタリバンの拠点だったマルジャでも、警察に対する不信感が渦巻いている。村の長老たちはタリバンを掃討したアメリカの海兵隊員を歓迎する一方、ANPには戻ってきてほしくないと言い切る。

「住民の最大の不安の1つは警察が戻ってくることだった」と、ウィリアム・コールドウェル米中将は言う。昨年11月から、アフガニスタンにおける治安部隊育成の指揮を執る人物だ。「現地にいた警察隊とタリバンと、どちらがひどかったかという話をしょっちゅう聞かされる」

 大事なのは、アフガン人によるアフガン人のための警察を育てること。警察は軍隊以上に地域社会に食い込まねばならない。軍隊は拠点を制圧すればいいが、警察に求められるのは「人心の掌握」だとコールドウェルは言う。「住民に信頼される警察が必要だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フィリピン水兵、南シナ海で重傷 中国海警局が「意図

ワールド

中国首相、西オーストラリアのリチウム工場視察 財界

ビジネス

EU、「バーゼル3」最終規則の中核部分適用を1年延

ビジネス

ファンドマネジャー、6月は株式投資拡大 日本株は縮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サウジの矜持
特集:サウジの矜持
2024年6月25日号(6/18発売)

脱石油を目指す中東の雄サウジアラビア。米中ロを手玉に取る王国が描く「次の世界」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は「爆発と強さ」に要警戒

  • 2

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 3

    えぐれた滑走路に見る、ロシア空軍基地の被害規模...ウクライナがドローン「少なくとも70機」で集中攻撃【衛星画像】

  • 4

    800年の眠りから覚めた火山噴火のすさまじい映像──ア…

  • 5

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開する…

  • 8

    中国「浮かぶ原子炉」が南シナ海で波紋を呼ぶ...中国…

  • 9

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 10

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 9

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 10

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中