「SNSが孤独を招く」の嘘
現代アメリカ社会の人間関係の希薄化を訴える論者は多いが根拠はどれも薄弱だ
SNSは悪の根源? フェイスブックが現代人の孤独を深めているとの見方に確たる証拠はない Rainier Ehrhardt/Getty Images
アメリカ人は過去に例のないほど他者とのつながりを失い孤独になっている──そう主張する本が近年、続けて出版されて話題を呼んでいる。アメリカが今よりも幸せだった黄金時代、つまり結婚生活は安定し地域社会のつながりは強固で町が安全だった頃を懐かしむ一方、現代人は孤立を深めていると警鐘を鳴らすといったたぐいの本だ。
アトランティック誌の5月号に掲載された作家のスティーブン・マーシュによる「フェイスブックは私たちを孤独にしているのか?」という論考もその1つ。「私たちは過去に例のない他者との距離感に苦しんでいる」と彼は書く。「つながればつながるほど孤独になるという、深まる一方の矛盾の中で私たちは生きている」
この主張、今よりもシンプルで幸せな時代を希求する人にはもっともらしく聞こえるかもしれない。だがこれは、架空の物語の上に展開された議論だ。実のところ、現代のアメリカ人がかつて例のないほど孤独であることを示す証拠は1つもない。
なのにこの論考は大きな反響を呼んだ。ネットが人々を分断している証拠として彼の論を取り上げるコメンテーターも出てきた。であれば、マーシュがこの論考で「現代アメリカ人は史上最も孤独だ」という神話をどのようにでっち上げたかを明らかにするのは大事なことだ。
代替品というよりおまけ
マーシュはまず、年老いた元プレイメイトの孤独死を、人間関係が分断された現代の象徴として取り上げる。これ自体は面白い話だし、マーシュの詩的で力強い文章を読んでいるとこの論考の持つ大きな欠点を見過ごしてしまいそうになる。その欠点とは「アメリカ人が今ほど孤独だったことはない」という説を証明する材料が何も提示されていないということだ。
あるとすれば「45歳よりも上の世代で長期にわたって孤独を抱えている人が急増した」という非営利団体の調査に触れた部分(ただし、フェイスブックを最も活用しているであろう若い世代はそうでもない)。それに「近年、非常に短い期間で孤独の度合いが劇的に進んだことを示す研究がいくつもある」という漠然とした主張くらいのもの。残念ながら、これでは先ほどの説を証明するには不十分だ。
マーシュの主張はまた、シカゴ大学のジョン・カチョッポ教授(心理学)の著作に多くを依拠している。例えばカチョッポの『孤独』からはこんな引用をしている。「ペットやネット上の友人、果ては神とつながりをつくることは、仲間と群れずにはいられない生き物としての、やむにやまれぬ必要性を満たすための気高い試みだ......(だがそんな)代わりのもので本物の不在を完全に埋め合わせることはできない」