最新記事

ドラッグ

マイケルを死に追いやった
麻酔薬プロポフォールの脅威

The High That Killed the King of Pop

2011年11月17日(木)14時28分
シャロン・ベグリー(サイエンス担当)

解毒剤はなく救済は困難

 即効性のあるプロポフォールは外来麻酔として広く使われているため、投与された経験がある人は大勢いる。経験者の約3分の1は記憶がなく、約3分の1は夢を見たが内容までは思い出せないという。残りは「鮮明で、時に性的な夢」を見ていると、ブライソンは言う。薬が切れた後は、熟睡した後のように活力が湧く人もいる。

 マイケルにプロポフォールを処方したのは、彼がコンサートのリハーサルのために活力を欲しがったからだとマレーは語った。だがこの薬は疲労回復を助けるような眠りをもたらさない。かえって常用して依存状態になると、薬が切れたときに何もできなくなる。

 プロポフォールは89年に認可されて以来、医療関係者による乱用の報告が数多く上がっている。モルヒネのような規制薬物ではないため病院の保管が甘く、くすねるのが簡単だからだ。07年の調査では、プロポフォール乱用事件の18%が医師または看護師によるもので、10年前の6倍だった。

 医療関係者以外の乱用も増えている。プロポフォールを投与された患者の中には「気に入って、どういう薬か知りたがる」人もいると、ブライソンは言う。大抵は「それまで薬物依存になったことのない人たちだ」。

 ある男性は頭痛で処方された後で病みつきになり、獣医から入手を続けて過剰摂取で意識不明のところを発見された。09年には自宅で死亡している女性が発見されたが、彼女は看護師の友人から薬をもらっていた。

 プロポフォール依存者の30%以上が死に至ると、カリフォルニア州麻酔医協会のケネス・ポーカー会長は言う。マイケルの場合、プロポフォールは心不全を引き起こした。この薬は他の麻酔薬とは違い、解毒効果のある薬がないため、過剰摂取した人を簡単に助ける方法はない。プロポフォールの乱用者25人を対象としたある研究では、7人が死亡している。

 乱用の増加を恐れる全米麻酔学会は昨年、プロポフォールを規制薬物とする米麻薬取締局(DEA)の提案を公式に支持した。だが具体的な対策はまだ何も取られていない。

[2011年10月26日号掲載]

ニュース速報

ワールド

英国民投票で戦いに勝利、今後は和平を=独立党党首

ビジネス

ドラギECB総裁、世界の中銀に「政策の連携」呼びか

ビジネス

タカタ会長が辞意表明、再建の道筋つけ「バトンタッチ

ビジネス

訂正:三菱UFJ、日立キャピタル出資に減損リスク 

MAGAZINE

特集:BREXITの衝撃

2016-7・ 4号(6/28発売)

世界を揺るがせたイギリス国民投票のEU離脱派勝利。リーマン危機級のパニックが再びグローバル経済を襲うのか

人気ランキング (ジャンル別)

  • 最新記事
  • コラム
  • ニュース速報
  1. 1

    もし第3次世界大戦が起こったら

  2. 2

    英キャメロン首相「EU離脱派6つのウソ」

  3. 3

    ISISが3500人のNY「市民殺害リスト」をアプリで公開

    無差別の市民を選び出し、身近な標的を殺せと支持…

  4. 4

    ハーバードが絶賛する「日本」を私たちはまだ知らない

  5. 5

    未婚男性の「不幸」感が突出して高い日本社会

  6. 6

    「国家崩壊」寸前、ベネズエラ国民を苦しめる社会主義の失敗

  7. 7

    安倍首相、消費増税再延期へ、サミットで経済状況リーマン級の危機と各国に説明

    財政出動への支持取り付けと消費増税延期への地な…

  8. 8

    Windows10の自動更新プログラム、アフリカのNGOを危険にさらす

  9. 9

    搾取されるK‐POPのアイドルたち

  10. 10

    財政赤字を本気で削減するとこうなる、弱者切り捨ての凄まじさ

  1. 1

    レイプ写真を綿々とシェアするデジタル・ネイティブ世代の闇

    ここ最近、読んでいるだけで、腹の底から怒りと…

  2. 2

    英国のEU離脱問題、ハッピーエンドは幻か

    欧州連合(EU)にさらに権限を委譲すべきだと答え…

  3. 3

    伊勢志摩サミットの「配偶者プログラム」はとにかく最悪

    <日本でサミットなどの国際会議が開催されるたび…

  4. 4

    嫌韓デモの現場で見た日本の底力

    今週のコラムニスト:レジス・アルノー 〔7月…

  5. 5

    間違い電話でわかった借金大国の悲しい現実

    ニューヨークに住み始めた僕は、まず携帯電話を手…

  6. 6

    【市場】いよいよ終わりの始まりが始まった

    いよいよ終わりの始まりが始まった。それは日銀のマ…

  7. 7

    日本で盛り上がる「反知性主義」論争への違和感

    日本で「反知性主義」という言葉が流行している…

  8. 8

    移民問題が「タブー」でなくなったわけ

    ここ数年、僕たちイギリスの国民は、一部の政治…

  9. 9

    中古ショップで見える「貧困」の真実

    時々僕は、自分が周りの人々とは違った経済的「…

  10. 10

    パックンが斬る、トランプ現象の行方【後編、パックン亡命のシナリオ】

    <【前編】はこちら> トランプ人気は否めない。…

  1. 1

    メルセデス・ベンツの長距離EV、10月に発表=ダイムラー

    ドイツの自動車大手ダイムラーは、メルセデス・…

  2. 2

    米フロリダ州の乱射で50人死亡、容疑者は警備最大手に勤務

    米フロリダ州オーランドの、同性愛者が集まるナ…

  3. 3

    英国のEU離脱派と残留派、なお拮抗=最新の世論調査

    11日に公表された世論調査によると、英国の欧…

  4. 4

    ECBのマイナス金利、銀行に恩恵=コンスタンシオ副総裁

    欧州中央銀行(ECB)のコンスタンシオ副総裁…

  5. 5

    米国株式市場は続落、原油安と世界経済懸念が重し

    米国株式市場は2日続落で取引を終えた。原油が…

  6. 6

    英国民投票、「EU離脱」選択で何が起こるか

    欧州連合(EU)は6月23日の英国民投票を控…

  7. 7

    NY市場サマリー(10日)

    <為替> 原油安や銀行株主導で世界的に株安が…

  8. 8

    英EU離脱は連合王国のリスク、元首相2人が警告

    英元首相のトニー・ブレア氏とジョン・メージャ…

  9. 9

    インタビュー:世界的な低金利、エンダウメント型投資に勝機=UBSウェルス

    UBSウェルス・マネジメントのグローバルCI…

  10. 10

    焦点:タカタ再建、「ラザード」効果で進展か 車各社との調整に期待

    欠陥エアバッグ部品の大量リコール(回収・無償…

定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
リクルート
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

0歳からの教育 育児編

絶賛発売中!

コラム

パックン(パトリック・ハーラン)

モハメド・アリ、その「第三の顔」を語ろう

STORIES ARCHIVE

  • 2016年6月
  • 2016年5月
  • 2016年4月
  • 2016年3月
  • 2016年2月
  • 2016年1月