最新記事

健康

更年期に憧れる男たち

「男性更年期」がメディアをにぎわしているが、月経のない男性がなぜ女性特有の症状を羨むのか

2010年8月27日(金)13時47分
バーバラ・カントロウィッツ(本誌コラムニスト)、パット・ウィンガート(ワシントン支局)

 数年前、私たちは更年期に関する本を執筆しながら周囲の反応を楽しんでいた。ある年代の女性にとって、更年期のガイドブックを書く私たちはロックスターだった。体の変化について知りたいことだらけの彼女たちは、風説ではなく科学に基づいた答えに感謝してくれた。

 男性の反応ははかばかしくなかった。それどころかカクテルパーティーでつまらない男を追い払いたければ、「更年期」とつぶやけばいい、と冗談にしていたほどだ。

 当時と比べて、更年期の話題は随分オープンになった。トーク番組や雑誌が取り上げ、更年期を題材にしたミュージカルが大ヒット。職場で更年期特有の火照りについて話すのもタブーではなくなった。何より研究が爆発的に増え、主要メディアが広く取り上げるようになったことは重要だ。
 そのせいか、男性も更年期が欲しくなったらしい。新聞雑誌をにぎわす「男性更年期」の記事は、男性も似たような体の変化を体験するのだから同情に値すると言わんばかり。女性が避けて通りたいものを羨むとは皮肉な話だが、男性の皆さん、更年期は女性のもの。あなた方にはあげられない。

不調はセックス絡み

 そもそも「男性更年期」という言葉自体が矛盾している。男性が更年期を経験するのは肉体的に不可能だ。私が知る限り、祖母の世代が「月のもの」と呼んだ生理のある男性はいない。「月のもの」が1年以上来ないのが閉経の医学的定義だ。生理がないなら閉経もない。よって男性に更年期はない。

 これで一件落着のはずだが、男性陣は事実うんぬんよりも老いを否定したいらしい。「これは老化じゃなくて一時的な体の不調だ」と言いたいようだ。

 更年期に似た症状に悩む男性がいるのは確かだ。それは「遅発性性腺機能低下症」で、7月に医学雑誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンが診断法を紹介した。

 ヨーロッパの研究グループが40〜79歳の男性3369人を調査したところ、男性ホルモンであるテストステロンの減少と性生活に影響しそうな3つの症状(勃起不全、性欲減退、早朝勃起の減少)に悩む男性は非常に少ないことが分かった。遅発性性腺機能低下症を患う男性はわずか2%。女性は100%が更年期を経験するのだから、比較にならない。

 男性の場合、不調はどれもセックス絡みだ。健康な性生活は大事だが、本物の更年期は性感帯だけでなく、女性の体の隅々にまで影響を及ぼす。

 この研究を取りまとめた英マンチェスター大学のフレデリック・ウー博士でさえ、不調に悩む男性の数は実際はもっと少ないかもしれないと認めている。臨床ではなく聞き取り調査で集めたデータは正確性に疑問が残るからだ。さらに被験者の多くはほかにも問題を抱えている。特に肥満は性機能を損ないがちだ。

 私たちは男性を敵に回すつもりはない。むしろ助けになりたい。例えば症状改善のためにホルモン剤の摂取を考えているなら、少し考えたほうがいいとアドバイスしよう。更年期の女性はお決まりのようにホルモン剤を投与されてきたが、米国立衛生研究所による女性の健康調査によれば、ホルモン治療は乳癌や脳卒中のリスクを増大する。研究が進むまで安易に手を出さないほうが利口だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中