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セックスは「衝動」ではなかった...空腹とは異なる、快楽の仕組み「インセンティブ・モチベーション」とは何か?

2025年7月13日(日)08時50分
エミリー・ナゴスキー(性教育者)

もし誰かがあまりの空腹からパンを盗んだとしても、その行動を同情と慈悲の心を持って見ることができるかもしれません。盗みは悪いことですが、人は生きるために必要なことをするとわかっているからです。

でも、単に他人のパンの味に興味があるからという理由でパンを盗んだら、私たちは同じように同情し、慈悲の心を持つことができるでしょうか?

できませんよね。セックスは衝動でも、生物学上「必要」なものでもないのですから、どんな状況においても、それを誰かから奪ってもいいということは絶対にありません。


 


[注]
(*1)Beach, "Characteristics of Masculine ʻSex Drive.ʼ" 衝動のセックスの概念化の歴史に関する手短な議論については以下を参照のこと。Heiman and Pfaff, "Sexual Arousal and Related Concepts."
(*2)セックスのチャンスに「恵まれていない」とパニックになるのは、性欲のせいではない。むしろそれは、少なくともある意味で、孤独のせいなのである。人とのつながりこそが、衝動なのだ(Nagoski,"Iʼm Sorry Youʼre Lonely")。
(*3)Toates, How Sexual Desire Works, chapter 4.
(*4) 好奇心や遊び心は、人間(および他の社会性を持つ哺乳類)にとって、飢えや渇きと同じくらい生得的なものであることに注意したい(Toates,Biological Psychology)。性教育における「セックスは必要ない」という視点は、男性の性的特権意識から女性を守るために提供されたものであるが(Manne, Down Girl 〔ケイト・マン『ひれふせ、女たち ミソジニーの論理』慶應義塾大学出版会・2019年刊〕とEntitled〔ケイト・マン『エンタイトル 男性の無自覚な資格意識はいかにして女性を傷つけるか』人文書院・2023年刊〕参照)、残念ながらその真逆の、絶対的な禁欲の提唱に傾倒していくこともある(Duffey, The Relations of the Sexes; Foster, The Social Emergency)ため、この点は重要である。セックスは人間が生まれながらにして持っている意欲であり、私の考えでは、唯一の前提条件は、相互が自由に同意できることと不要な苦痛がないことだ。これは、まさに男性に性的特権意識があるために、言うは易く行うは難しである。


エミリー・ナゴスキー(Emily Nagoski, Ph.D.)
性教育者。本書『私たちのセクシュアル・ウェルネス(原題:Come As You Are)』はニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーとなり、TEDトークの再生数は数百万回を誇る。Netflixのドキュメンタリー・シリーズ『快楽の原則』にも出演。キャリアの始まりは、デラウェア大学在学中にボランティアとして学生たちに健康、とくに性についてのアドバイザーとなる訓練を受けたことだった。大学卒業後はインディアナ大学大学院でカウンセリング学の修士号と健康行動学の博士号を取得。同大学キンゼイ研究所で研修を受けたのち、スミス・カレッジで8年にわたって教鞭を執った。現在は執筆と講演活動を中心に活動。漫画家の夫と2匹の犬、2匹の猫とともにマサチューセッツ州西部に暮らす。


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 『私たちのセクシュアル・ウェルネス 女性の体・性・快楽のメカニズム

  エミリー・ナゴスキー[著]
  小澤身和子[訳]/高尾美穂[監]
  日経ナショナル ジオグラフィック[刊]

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