最新記事

ヘルス

あなたも脳の老化が始まっている!? 40代から始まる前頭葉委縮の初期兆候

2022年10月21日(金)14時50分
和田秀樹(精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

現役の国のトップや会社のトップが実はアルツハイマー病を発症していたということは珍しくないと私は考えている。というのは、初期レベルでは、記憶障害はあっても、知能はそれほど衰えないからだ。ただ、アルツハイマーという病気は50代までは1000人に一人くらいしかいない。

脳の老化は、こうした記憶障害よりはるかに前に前頭葉で起こっている。実際、CTやMRIのような頭の写真をみても40代から頭蓋骨と脳の前頭葉にあたる部分に隙間が見えるようになる、つまり委縮が目で見えるようになるのだ。

前頭葉機能が衰えてくると、意欲低下や前例踏襲思考が目立つようになる。前頭葉というのは、予想していなかったことに対応する機能も担っているので、前頭葉が衰えてくると、想定外のことを避ける傾向が出てくる。

例えば、ハズレをおそれて行きつけの店にしか行かなくなるとか、同じ著者の本しか読まなくなるとかいうのは前頭葉機能の低下の初期徴候の可能性が高い。

そして前頭葉の機能が衰えてくると、意欲が低下して、たとえば外出しなくてもいいやとか、出世しなくてもいいやということになり、さらに老化が進んでしまう。

というのも、歳を重ねるほど「使わなかった」際の機能低下が激しくなるからだ。例えば、コロナ禍などでの自粛生活。50代くらいまでであればステイホームを強いられる期間が2年以上になっても、歩けなくなったり、頭がボケたようになったりすることはない。しかし、70代以降になると本当に歩けなくなってしまう。だから、歩き続ける、頭を使い続ける意欲は極めて重要なのだ。

記憶の低下より、意欲の低下のほうが先に起こる、それが老化を促進してしまうということを知っておいてほしい。

日本は欧米先進国より前頭葉が劣ってしまう社会構造

私が見るところ、日本という国は、そうでなくても、前頭葉の機能が欧米先進国より劣ってしまう社会構造になっている。海外の高等教育では、これまで初等中等教育で学んできたことを疑ったり、教授の言うことを素直に聞かずに議論したりするようなことを行うが、日本では、教授の言ったことをノートに記し、その通りにテストで書くような学生が優やAをとる。そしてその数が就職に直結する。

このように習った通りのことを再現するようなことが高等教育まで続くと、前頭葉は鍛えづらい。社会に出ても、上司の与えた仕事を素直にこなし、言われたとおりのことをやる人間や、前例踏襲がうまくできる人間が出世する。これも前頭葉機能が成長しないパターンだ。

こうした状況を見た上での私の考えはこうだ。日本人の多くの前頭葉機能は、欧米の高等教育を受け欧米流の職場で働いてきた人たちより劣るだけでなく、40代以降は、脳の前頭葉の部分が委縮しやすいのではないか――。

日本人は、平均年齢も中位年齢も49歳近くになっている。すると人口の6割くらいが40代以降に前頭葉の委縮が目立ち始めるということになる。

こういう人たちの多くは、無自覚に前例踏襲思考に走る。

前例踏襲とは、例えば「自民党の政策は不愉快だが、ほかの政党に任せると余計悪くなりかねないから」と消去法的に自民党に投票するとか、これだけ高齢者が多いのに日本発の新産業が生まれないとか、あるいは30年もまったく経済成長がないのに、バカの一つ覚えのように金融緩和と財政出動しか行わない......。私には、これらすべて日本人全体の前頭葉機能の老化のなせるわざだと思えてしかたない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:1ドルショップに光と陰、犯罪化回避へ米で

ビジネス

日本製鉄、USスチール買収予定時期を変更 米司法省

ワールド

英外相、ウクライナ訪問 「必要な限り」支援継続を確

ビジネス

米国株式市場=上昇、FOMC消化中 決算・指標を材
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中