最新記事
コメ不足

コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治家・農水省・JA農協の歪んだ関係

2025年4月10日(木)14時28分
山下 一仁 (キヤノングローバル戦略研究所研究主幹) *PRESIDENT Onlineからの転載

JA農協の正体

終戦直後の食糧難の時代、政府は食糧管理法によって農家からコメを買い入れ消費者に安く提供してきた。配給制度と言い、貧しい人もコメが買えるようにしたのである。

しかし、農家は高い値段がつくヤミ市場に、コメを流してしまう。そうなると、配給制度を運用している政府にコメが集まらない。

このため、農林省は戦前の統制団体をJA農協に衣替えして、農家からコメを集荷させ、政府へ供出させようとした。これがJA農協の起こりである。食糧管理制度が存続している間、農協は95%程度のシェアを維持していた。農協(農林中金)は政府から受け取る巨額のコメ代金を農家に渡す前にコール市場で運用して大きな利益を得た。


ヨーロッパやアメリカの農協は、酪農、青果等の作物ごと、生産資材購入、農産物販売等の事業・機能ごとに、自発的組織として設立された専門農協である。

これに対し、JA農協は、作物を問わず、全農家が参加し、かつ農業から信用(銀行)・共済(保険)まで多様な事業を行う “総合農協” である。欧米に金融事業等なんでもできる農協はない。

日本でも銀行は不動産や製造業など他の業務の兼業を認められていない。日本に銀行事業と他の業務の兼務が認められている法人は、JA農協(と漁協)以外にない。

JA農協は本来農業者のための協同組合なのだから、その組合員は農業者である。

しかし、農協には、地域の住民であれば誰でもなれる准組合員という独自の制度が認められた。正組合員と異なり、准組合員は農協の意志決定には参加できないが、農協の信用事業や共済事業などを利用することができる。准組合員は他の協同組合にない制度である。これは、利用者が組織をコントロールするという協同組合原則からは完全に逸脱している。

「減反政策」でJA農協が発展するカラクリ

米価が高くなると、コストの高い零細な兼業農家はマチで高いコメを買うより、赤字でも自分で作った方が安上がりとなるので、コメ産業に滞留した。

酪農家の84%が農業で生計を維持している主業農家であるのに、コメ農家の74%は副業農家で、主業農家は8%しかいない。農家全体でみると、多数のコメ農家の存在を反映して、2003年当時で農業所得に比べ兼業所得は4倍、年金収入は2倍である。

これらは、JAバンクに預金された。

地価高騰による宅地等への巨額の農地転用利益もJAバンクに預金された。農地面積は1961年に609万haに達し、その後公共事業などで約160万haを新たに造成した。770万haほどあるはずなのに、430万haしかない。

食料安全保障に最も重要なものは農地資源である。日本国民は、造成した面積の倍以上、現在の水田面積240万haを凌駕する340万haを、半分は転用、半分は耕作放棄で喪失した。160万haを今転用したとすれば、農家は少なくとも200兆円を超える転用利益を得たことになる。

耕作放棄の多くは生産条件の悪い中山間の傾斜農地等である。しかし、転用されているのは、平場の優良農地である。食料安全保障からは後者の方がはるかに重要なのに、農家が転用で利益を上げていることはほとんど報道されない。コメの値段が安いので耕作放棄するという、お涙頂戴式の報道ストーリーに合わないからだ。

こうして、JAは預金量100兆円を超すメガバンクに発展した。減反で米価を上げて兼業農家を維持したこととJAが銀行業と他の事業を兼業できる日本で唯一の法人であることとが、絶妙に絡み合って、JAの発展をもたらしたのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

戦闘停止巡るパキスタンの取り組み、「重大な」段階に

ワールド

フィリピン3月CPI、+4.1%に大幅加速 輸送費

ワールド

ブルガリア国民のユーロ支持、中東紛争でさらに高まる

ワールド

台湾野党党首、中国へ「平和に向けた歴史的な旅」 習
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 4
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 5
    「王はいらない」800万人デモ トランプ政権への怒り…
  • 6
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 7
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 8
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 9
    トランプ、イランに合意期限「米東部時間6日午前10時…
  • 10
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 3
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 4
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 5
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 9
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中