最新記事
中国経済

中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つの共通点

FALL OF CHINESE MANUFACTURING

2024年9月2日(月)17時09分
易富賢(イー・フーシェン、米ウィスコンシン大学の人口統計学者)
中国製造業の衰退が日本とダブる

中国の製造業に元気がない(中国江西省北部、九江市の電化製品会社の生産ラインで働く労働者たち)humphery -shutterstock-

<中国の製造業の急成長に息切れが見られる。一体何が起きているのか。それを理解するには、日本の製造業がたどった道のりが参考になるかもしれない>

中国の過剰生産能力に対する懸念が世界中で高まっている。無理もない。中国製品は世界の製造業の輸出の5分の1、付加価値輸出のほぼ3分の1を占めるのだから。

だが最近、その中国の製造業に衰退の兆しが見られる。一体何が起きているのか。それを理解するには、日本の製造業がたどった道のりが参考になるかもしれない。


第2次大戦後の日本の製造業の急成長は、巨大なアメリカ市場に支えられていた。

ところが1985年のプラザ合意で、円高ドル安の誘導が決まり、日本製品の輸出が打撃を受けると、少子高齢化と労働力人口の減少も手伝い、日本の製造業は低迷し始めた。アメリカの輸入に占める日本製品の割合は85年は22%だったが、2022年には5%まで落ち込んだ。

ここ数十年の中国の製造業の猛烈な成長は、かつての日本以上にアメリカ市場に支えられてきた。その一方で、01〜18年の中国によるアメリカ製品の輸入総額は、中国製品の対米輸出の23%程度と、著しい貿易不均衡が生じることになった。

その大きな原因として、1980年から35年間続いた中国の一人っ子政策が挙げられる。親は子供一人では老後に不安があるから貯蓄に励まざるを得ず、消費が抑制された。それでも政府は内需拡大よりも製造業の支援にばかり力を入れてきたから、過剰生産能力は一向に解消されない。

内需が弱いことを考えると、中国が過剰生産能力を削減し、さらに十分な雇用を創出する(現在約1億人が仕事にあぶれているとされる)ためには莫大な経常黒字を維持するしかない。つまり、大量の中国製品をアメリカに輸出し続けるのだ。

実際、アメリカの輸入に占める中国製品の割合は1985年は1%だったが、2017年には22%に達した。

中国の製造業の急成長は、アメリカの製造業の衰退の一因となり、グローバル化と、それを推し進めた「政治エリート」に対する大衆の不満へとつながった。それは政治の素人だったドナルド・トランプが、16年の米大統領選に勝利する一因にもなった。

その意味では中国の一人っ子政策は、間接的にだが、アメリカの政治風景を変えたとも言える。そして今度は、アメリカの政治が中国経済を変えようとしている。

トランプが18年に発表した追加関税に始まる中国たたきは、バイデン大統領の下で激化し、24年上半期のアメリカの輸入に占める中国製品の割合は12.7%まで落ち込んだ。

このためアメリカの関税障壁を避けるべく、製造拠点を中国からベトナムやメキシコに移すメーカーも出てきた。かつての日本で起きたように、これはより幅広い企業の海外流出の前兆かもしれない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市首相の解散判断「容認」、議員定数削減前でも=吉

ワールド

米が111億ドルの武器売却手続き開始、台湾国防部発

ワールド

トランプ米政権、一部帰化者の市民権剥奪強化へ=報道

ワールド

豪ボンダイビーチ銃撃、容疑者親子の軍事訓練示す証拠
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中