最新記事

ベンチャー

シリコンバレーが起業家を殺す

少数のスタートアップ企業に資金が集中し、地方格差が進むアメリカでは起業家精神が衰退しつつある

2015年7月15日(水)18時52分
ケビン・メイニー

相手はガリバー シリコンバレーが拠点だと1ケタ多い資金が集まるが、それ以外は閑古鳥 Robert Galbraith-/Robert Galbrai

 シリコンバレーはアメリカ経済の起爆剤だ。数々のイノベーションを生み、経済全体に活力をもたらしてきた。その一方で、サンフランシスコからサンノゼのこの一帯は、アメリカ中から起業家精神を吸い取るブラックホールでもある。

 ここ数年のアメリカのベンチャービジネスの動向をみると、逆行する2つのトレンドが目につく。シリコンバレーではIT関連のスタートアップ企業がわが世の春を謳歌しているが、アメリカ全体では起業家精神は冷え込む一方だ。この現象は統計でも明らかだが、アトランタやカンザスシティーなどの地方都市では肌感覚で分かる。

 この2つのトレンドに相関性があるかはさておき、今のアメリカが「勝者がすべてを得る」社会になりつつあることは確かだ。クラウドコンピューティングやソーシャルメディアなど新技術の登場がこの傾向に拍車を掛けている。

 ベンチャービジネスではシリコンバレーは明らかに勝者であり、すべてを得ている。2番手のニューヨークもまずまず健闘しているが、その他の都市はいずこも青息吐息だ。

 ほぼどんな尺度でみても、シリコンバレーと他の地域の格差は明らかだ。例えば、全米ベンチャーキャピタル協会のデータをみると、ベンチャーキャピタル会社が2014年にシリコンバレーの新興企業に投じた資金は320億ドル余り。これは全米の他の地域の新興企業に投下されたベンチャーキャピタルの総額のほぼ2倍に当たる。ベンチャー投資が2番目に活発な都市は

 ニューヨークとボストンで、それぞれ約40億ドル。その他の都市のベンチャー企業への投資額はお話にならないほど少ない。
ニュースサイト「ストリクトリーVC」は、世界中の新興企業の資金調達額を発表している。今年5月の記事によると、バージニア州レストンのウェルスマインダーが150万ドル、サンディエゴのサイバーフロー・アナリティックスが400万ドル、ロンドンのトゥエンガが1100万ドルを調達。一方で、シリコンバレーに本拠を置く中古車のマーケットプレイスサービス会社、ビーピー(創業2年)は、既に調達済みの8000万ドルに加え、新たに3億ドルの調達に成功している。シリコンバレーに拠点があるだけで、調達額が1桁変わるらしい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタン国際航空、地元企業連合が落札 来年4月か

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど

ワールド

リビア軍参謀総長ら搭乗機、墜落前に緊急着陸要請 8

ビジネス

台湾中銀、取引序盤の米ドル売り制限をさらに緩和=ト
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中