最新記事

インフラ

ライフラインを叩き売るギリシャ、群がる外資

港は中国に、空港はドイツに……債務危機でギリシャの空洞化が進む

2015年6月17日(水)11時36分
ルーシー・ドレイパー

レッドライン 最後の砦だったピレウス港も売却へ Alkis Konstantinidis-REUTERS

 ドイツから中国、ロシアまで、外国企業がたたき売りに群がっている。次々と売りに出されているのは、債務返済に苦しむギリシャの国有資産だ。

 売却対象は空港や港湾、高速道路や電気・ガスなどの公益事業にまで及んでいる。売却プロセスを一括して担う国有資産開発基金(HRADF)のウェブサイトを見れば、多くの不動産が売りに出されていることが分かる。

 なかでも主要なものは、ギリシャ最大の港であるピレウス港の51%の株式を中国遠洋運輸集団(COSCO)に売却する案件。さらに観光需要の高いコスやミコノス、コルフ各島の空港を含む14の地方空港をドイツの空港運営会社フラポートAGに売却する計画も進んでいる。

 この動きは、1月に政権に就いたツィプラス首相率いる急進左派連合(SYRIZA)の方針転換といえる。彼らは当初、EUなどから救済の条件として要求されていた政府事業の民営化に抵抗する構えを見せていた。政府は2月、主要な国有資産の売却を阻止すると宣言。スタサキス経済相はピレウス港の民営化計画を中止すると発表し、ラファザニス・エネルギー相は計画されていたガス、電気会社の売却を進めない方針を示した。

 バルファキス財務相は当時、こう発言していた。「財政危機のさなかに国家の宝を売却するよりも、国有財産を活用して資産価値を広げ、経済を強化するほうが賢いやり方だ」

 だがその後3カ月で状況は悪化。4月には公営競馬事業が4050万ユーロ(約52億円)で売却され、ツィプラス政権発足以来初となる民営化が実施された。SYRIZAにとって越えてはいけない「レッドライン」だったピレウス港の民営化が進む今、ほかの重要資産も雪崩を打って売却される可能性がある。

 国際社会への攻撃的な姿勢を崩さなかったギリシャ政権だが、今後は外国からの買いあさり攻撃を受けそうだ。

[2015年6月 2日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中