最新記事

ユーロ危機

優等生スロベニアがキプロスの余波でピンチ

破綻した地中海諸国と違い、スイスのような堅実さを誇りにしてきたスロベニアの無念と危険

2013年4月18日(木)16時10分
ポール・エイムズ

「第2のキプロス」? 金融危機で景気後退に見舞われ、給与カットに抗議する公務員 Srdjan Zivulovic-Reuters

 中欧の小国スロベニアは1991年に旧ユーゴスラビアから独立を宣言して以降、スイスのような堅実さを自負してきた。ギリシャやイタリア、キプロスのように理性を欠き、自ら危機を招いた地中海諸国とは違うというわけだ。

 それだけに、自国が「第2のキプロス」と呼ばれ始めたときの無念さは想像に余りある。「国民は心配している」と、スロベニア選出の欧州議会議員、タニヤ・ファヨンは言う。「独立後の20年を振り返っても、今ほど悲観的だったことはない」
銀行不安に端を発したキプロス危機は先月下旬、ユーロ圏の金融支援でひとまず落ち着いた。しかし今度はその余波が、スロベニアを脅かしている。

 ユーロ圏がキプロス支援の条件として大口預金カットなどの負担を強いたため、同じく銀行不安を抱えるスロベニアでは預金口座の凍結や引き出し制限がいつ行われるか分からないという恐怖が広がっている。取り付け騒ぎが起これば、国家が破綻しかねない。

 人口200万人のスロベニアは欧州新興国の模範だった。04年にEUに加盟してから5%以上の成長となり、個人所得も一部の欧州先進国を上回った。07年には旧共産圏の国として初めてユーロ加盟も果たした。

 それが翌年の世界金融危機で脱線した。09年の経済成長率はマイナス7.8%、昨年も2.2%のマイナス成長だった。銀行は好景気の頃のリスクの高い投資のせいで90億ドルの不良債権を抱えている。

 IMFの試算では、スロベニア政府は今年38億ドルを国外から調達する必要があるが、「第2のキプロス」不安で市場からの借り入れコストは過去最高水準。10年物国債の利回りは6.3%と、財政破綻のめどになる7%に近づきつつある。

 もっとも、スロベニアの状態はキプロスより良好だとエコノミストたちは言う。スロベニアの銀行資産はGDPの140%だが、キプロスは700%だった。経済の金融部門への依存度もはるかに小さい。政府債務のGDPに対する比率はキプロスの93.1%に対して59.5%だ。

 先月誕生した新政権が計画どおりに銀行改革を進めれば、危機は回避できると専門家は言う。ただしそれは、預金者がパニックを起こさなかった場合。キプロスで悪しき前例を作ったユーロ当局の短慮が悔やまれる。

From GlobalPost.com特約

[2013年4月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル一時急落、154円後半まで約2円 介入警戒の売

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

円安、物価上昇通じて賃金に波及するリスクに警戒感=

ビジネス

ユーロ圏銀行融資、3月も低調 家計向けは10年ぶり
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中