コラム

「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する「本当の試練」とは?...大きすぎた戦争の代償

2025年10月28日(火)10時20分

ただし、トランプが提示した20項目に及ぶ、いわゆる「和平案」のうち、実際に進められているのは「戦闘の停止」と「人質解放」に限られ、ガザ地区の今後の統治体制や再建計画に関する議論は、ほとんど着手されないまま放置されている。

統治の枠組みが不明確なままであれば、ガザの生活再建や復旧・復興の見通しも立たない。ガザ地区では住宅などの建造物の約8割が破壊され、国連の推計で約700億ドル(約10兆6000億円)が必要とされるなど、再建には想像を絶するほどの長く険しい道のりが待ち受けている。


もう1つ重大な課題は、史上最長となった戦争で「ランナーズハイ状態」にあったイスラエル社会が、停戦を経てようやく自らが失ったものの大きさに気付き始めていることだ。

当初、ハマスによる無差別テロを受けて広がったイスラエル人への同情は、その後のイスラエルによる苛烈な攻撃の継続により逆転。イスラエルに対する国際感情の悪化を当のイスラエル人自身も感じ取っている。

筆者の周囲にも国外でイスラエル出身であると名乗るのが怖いという人がいるし、国外でヘブライ語を使わないようにしている人を取り上げた報道が国内でもなされている。

イスラエル人は、国際社会での自国の立場や環境が大きく変化してしまった厳しい現実を直視せざるを得なくなっている。

プロフィール

曽我太一

ジャーナリスト。東京外国語大学大学院修了後、NHK入局。札幌放送局などを経て、報道局国際部で移民・難民政策、欧州情勢などを担当し、2020年からエルサレム支局長として和平問題やテック業界を取材。ロシア・ウクライナ戦争では現地入りした。2023年末よりフリーランスに。中東を拠点に取材活動を行なっている。

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