コラム

国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の「保守性」

2025年10月22日(水)14時00分

若者からすると、例えば特定の産業で時代の先端分野における決定に関与したい、そこで時代のスピード感に合わせて自分の能力を発揮したいということになると、伝統的な事業会社の終身雇用システムを一歩目から歩むという選択はできません。社長ですら変革を主導できないような保守性に絡め取られてしまうからです。反対に、外資コンサルに行けば、戦略立案や決定のプロセスに参加できるというわけです。

金融やITの場合はもっと明確な理由があります。まず、金融の場合は1990年代にバブル崩壊と金融危機を経験した日本の業界は、ひたすらリスクを回避する経営に徹してきました。企業風土がそうであるだけでなく、高齢者の個人金融資産そのものがリスクを選好しないので、ハイリスク・ハイリターンを好むマネーが日本では限られているのです。その結果として、最先端の金融工学を駆使したダイナミックな投資に関与したいのであれば、どうしても外資ということになります。M&Aや大規模な起債に関与する投資銀行なども同様です。


ITの場合はそれこそ、90年代以降、日本発のイノベーションは守旧派によって潰されてきました。ファイル交換のプログラムを作った技術者は死に追いやられ、ポータルを成功させて総合メディア企業を志向した起業家は投獄されました。携帯電話とネット閲覧を合体したスマホの先駆である事業を国際展開しようとした変革者は、リスクを嫌う上層部に切り捨てられました。

その一方で、EC(ネット通販)や検索サービス、動画サイトなどの時代を変えるような外国勢力がやってくると、官民はホイホイと市場を提供してきました。結果として、現在では技術力においても資金力についても巨大な内外格差が存在しています。また、膨大なデジタル赤字というのが積み上がっているわけです。そんな中で、コンピュータの領域で最先端の世界に参加したい若者には、外資を目指す選択が中心になるのは仕方ありません。

つまり、自ら変革のできない伝統企業、リスクの取れない金融業界、テクノロジーによる変革を潰す守旧派、というような日本国内にある「保守性」が、優秀な若者を外資に追いやっているのです。そして、90年代以降、いつまでも続く経済の衰退というのも、同じ「保守性」が足を引っ張っているのです。優秀な若者が外資を目指すという現象が、日本経済への警鐘だというのは、そういった意味です。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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