コラム

日本とアメリカの貧困は、どこが同じでどこが違うのか

2019年08月02日(金)16時10分

間違ってはいないと思います。ですが、もっと重要なのは日本の産業構造が劣化していることです。現在の日本経済には、昭和末期のように「世界の市場を占有するような勢いのエレクトロニクス製品」とか「集中豪雨的輸出だとして非難される自動車の完成車」などの製造業はほとんど残っていません。

世界経済を支えているスマホ産業では国際市場からほぼ全社が撤退、IT化の進むフィンテック部門では完全に後進国、AI技術ではもっと後進国で、AIを実用化するためのビッグデータ収集という点ではさらに遅れています。

それでは、日本に何が残っているのかというと、具体的には「中小企業中心の部品産業」「日本語による非効率な事務作業」「低賃金構造の観光産業」くらいです。一方で、トヨタをはじめとする日本発の多国籍企業には元気な会社もありますが、AIなど最先端の開発や、デザインなど高付加価値の機能は、どんどん国外に出してしまっています。最もGDPに貢献する製造部門は、自動車にしてもほとんど現地生産にシフトしており、雇用も利益も国外で生み出されているだけです。

つまり、日本のGDPにカウントされる国内経済は、規模の点、質の点でも先進国から滑り落ちるスレスレのところにいるのです。

ということは、最初に紹介したスミス氏のコラムについては、やはり間違っていると言わざるを得ません。再分配は大事です。日本でもアメリカでも、格差社会の是正のためにもう少し増強しなければなりません。ですが、貧困の本当の原因は、別の場所にあります。アメリカの場合は中間層を育てられない教育やコミュニティーの問題が根底にあり、日本の場合はとにかく産業構造の劣化が大きな要因と考えられます。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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