最新記事
シリーズ日本再発見

着物は手が届かない美術品か、海外製のインクジェット振袖か

2020年06月04日(木)16時30分
島田昌和(文京学院大学経営学部教授)

ジャカード機の導入で複雑なデザインが織りでも表現できるようになると、染柄、すなわち、錦絵のような絢爛豪華な絵柄を織りの職人も求めるようになる。それを供給したのは京都であり、日本画家が名を隠して副業としてデザインを提供した。

中には関東の産地に移り住んで図案家、今でいうデザイナーという職業を確立させた者も出てきた。と同時に織物産地の学校に図案コースが作られ、織物デザイナーが養成されはじめた。

戦後になると、織物産業は斜陽化しはじめ、織物とそのデザインは海外に渡り始める。ハワイに行ってアロハシャツになり、軍関係者がスカジャンをアメリカに伝える。さらにはアフリカに輸出され、精緻化された着物のデザインはモチーフをアフリカのものに替えて踏襲された。長年積み重ねた着物のデザイン力は民族や文化を超えたのである。

おしゃれ着として着物を着よう

この本の著者たちからこういう話を聞いてから、着物を眺めると見方が全く変わってくる。着物は着るというよりも空気とともにまとう衣料なことがわかる。反物の裏を見るようになり、糸の先染めか後染めかに目を凝らすようになる。絹は高いが、手の届くものとして綿やウール、さらにシルクウールという混紡があることを知る。

そんなことを教えてくれる新しいコンセプトのショップも本の中で紹介しているので、尻込みせずに訪ねてみてほしい。

着物は暑くて重くて苦しくて、晴れの場に我慢して着て、終わったら一刻も早く脱ぎたい衣類だけでないことをまず広めないといけない。夏祭りや花火大会、観光地でのそぞろ歩き、卒業式に成人式、結婚式だけの衣装にしてはいけない。週末の繁華街で思いっきり気分を変えて歩きたい、美術館や展覧会にいつもと違うおしゃれをして出歩きたい。普段会っている会社仲間や友人に少し違う自分を見せたい。

その時ばかりの流行に流されるだけでなく、素材の肌触り感やこういうプロセスだからこのデザインができていることを人に伝えられるものをまとう。そのような日常が組み込まれた社会を残すことが唯一、伝統服飾文化を残す道ではないだろうか。誰も着なくなり、博物館のウインドウ越しにのみ見る美術品になるのはあまりに悲しい。

japan20200604kimono-cover174.jpg
きものとデザイン――つくり手・売り手の150年
 島田昌和 編著
 ミネルヴァ書房

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

[筆者]
島田昌和(しまだ・まさかず)
1961年生まれ。1993年明治大学大学院経営学研究科博士課程単位取得満期退学。2005年博士(経営学、明治大学)。現在、学校法人文京学園理事長、文京学院大学経営学部教授。渋沢栄一研究の第一人者。主著『渋沢栄一と人づくり』(共編著)有斐閣、2013年。『渋沢栄一 社会企業家の先駆者』岩波書店、2011年。『進化の経営史――人と組織のフレキシビリティ』(共編著)有斐閣、2008年。

japan_banner500-season2.jpg

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミネソタ州に兵士1500人派遣も、国防総省が準備命

ワールド

EUとメルコスルがFTAに署名、25年間にわたる交

ワールド

トランプ氏、各国に10億ドル拠出要求 新国際機関構

ワールド

米政権、ベネズエラ内相と接触 マドゥロ氏拘束前から
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 2
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 3
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」も子に受け継がれ、体質や発症リスクに影響 群馬大グループが発表
  • 4
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 5
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 6
    「リラックス」は体を壊す...ケガを防ぐ「しなやかな…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 9
    中国ネトウヨが「盗賊」と呼んだ大英博物館に感謝し…
  • 10
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中