行き過ぎた円安が終わり、2023年に懸念されること

岸田政権が、より対応が難しい「大幅な円高」に苦慮するケースは...... Lillian Suwanrumpha/REUTERS
<最近の金融緩和に関する偏向した議論に影響され、岸田政権が仮にアベノミクス路線の転換を進めれば、日本経済にとって無視できないリスクになる......>
為替市場では10月中旬に1ドル150円前後まで円安ドル高が進んだが、12月2日には一時1ドル133円台まで円高ドル安に動いた。11月は米インフレ指標(消費者物価)の下振れ、パウエルFRB(米連邦準備理事会)議長の発言が「ハト派」とみなされたことで、米国の長期金利が大きく低下したことが、ドル安を促した。
もっとも、FRBの利上げ期待を反映する米国2年物国債金利はやや低下しているが4.3%前後(12月2日時点)で推移しており、10月中旬からあまり変わらず、高止まりが続いていると言える。ただ、ドル円は、8月以来となる円高水準まで動いた。FRBの政策に対する思惑だけでは、最近1か月の円高ドル安を説明することは難しく、米金利とドル円は「かい離」しているようにみえる。
この「かい離」の一つの理由は、今年の夏場から10月中旬にかけてドル高円安が、ユーロドルなど他の通貨よりも急ピッチに進む場面があり、その反動が大きく表れていることだろう。11月15日当コラムでは、円安に関する国内メディアの報道が過熱したことが、円安への投機的な動きを促したと指摘した。「悪い円安」「円安は日本経済衰退の象徴」などが典型例だが、これらの多くに筆者は強い疑問を感じていたが、こうした声が投機的、行き過ぎた円安を促したとみられる。その巻き戻しが、11月中旬からの最近のドル高円安をもたらした一因と思われる。
米国のインフレは最悪期を過ぎつつある
このまま、円高ドル安が続くかどうか。短期的な為替市場の予想は難しいが、筆者はやや懐疑的である。最近の円高ドル安は、投機的な値動きの「反動」が大きく影響している側面がある。ドル円の趨勢に大きく影響するのは、やはりFRBの金融政策である。
金融政策に影響を及ぼす、米国のインフレについては最悪期を過ぎつつあると筆者は考えている。ただ、FRBがインフレ警戒姿勢を緩めて、利上げ打ち止めを考え始めるにはまだ時間がかかるとみられる。11月分の雇用統計において、平均時給が前年比+5.1%と再び伸びが高まった。今月の雇用統計については、調査サンプルが少ないなど精度の問題があるが、労働市場市場に起因する賃金上昇が落ち着くには時間を要していることを示している。
インフレ圧力ピークを過ぎつつあるにしても、FRBがインフレ警戒姿勢を簡単に和らげることは難しく、2023年春先まで試行錯誤する時間帯が続くのではないか。来年2月以降のFOMC会合を見据えた早期利上げ打ち止め期待が剥落して利上げが続くとの期待が強まれば、再びドル高円安に動く場面が想定される。
ただ、先に説明した、国内のメディアを通じて伝えられた、「円安を煽る」声が再び盛り上がる可能性は低いだろう。このため、10月にみられたような1ドル150円を超える、大幅なドル高円安が再び訪れる可能性は高くないように思われる。
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