コラム

雄安新区の可能性を現地でみてきた

2017年08月29日(火)11時55分

つまり、東京―横浜、東京―千葉は30-35キロぐらいの距離で、これぐらいであれば毎日通勤する人も多いが、軽井沢や沼津から東京に毎日通うというのは、ありえなくはないものの、それを実践する人は少ない。そんな遠いところに北京の「サブセンター」を作っても、移動に時間がかかりすぎる。

となると、北京、天津、雄安は全体として一つの大都市圏を構成するというよりも、基本的にはそれぞれ完結するような都市圏となり、部分的に補完関係を持つとするほうが現実的である。今年7月には北京と雄安が高速鉄道で結ばれた、と報じられたが、まだ1日片道2便で、所要時間は1時間20分である。

「これだったら通える」と日本の感覚で考えてはいけない。中国の高速鉄道は日本の新幹線と違って町はずれに駅があるし、乗車前に荷物検査や身分証のチェックなど飛行機並みに手続きが煩雑なので、仮に雄安の自宅から北京のオフィスまで通おうとしたらどんなにひいき目に見ても2時間半、普通は3時間ぐらいかかるだろう。

雑貨商も大きなビルに

さて、将来「雄安新区」になる地域の過去と現在をみると、実は中国の農村としてはなかなか素晴らしい発展をしてきたところなのである。このあたりで最も有名な場所の一つは、正確に言えば雄安新区の第1期開発地域の範囲の外なのだが、白溝鎮といって、雑貨の巨大な集散地になっている。1990年代前半にはすでに有名だったが、当時見に行った時は、主に農村で売られるような様々な安い雑貨の卸売商が埃っぽい道路沿いに延々と軒を連ねていた。

北京からは、主に農村出身の人たちが利用する木樨園の長距離バスターミナルから20分に1便ぐらいの頻度でバスが出ている。今回私はバスで北京から白溝に行ったのだが、途中渋滞やら道路工事やらで3時間かかってしまった。やはり簡単に通える距離ではない。

このたび約20年ぶりに白溝を訪ねてみたら、かつての埃っぽい卸売街の雰囲気も残っていたものの、中心部には地上6階地下1階の白溝国際商貿城という大きな商業ビルが開設され、中には雑貨の卸売商が多数入居していた。売られているものはまさに「雑貨」と総称するよりほかにないもので、おもちゃ、台所用品、調理家電、健康器具、カバン、アクセサリーなどである。もっぱら農村向けに売られるような安い商品が中心だが、20年前に見た時と比べると、その品質も内容もずいぶん向上していた。おもちゃ屋ではドローンの飛行実演をしていた。

marukawa170829.JPG
地上6階地下1階の大きなビル、白溝国際商貿城には雑貨屋が多数入居 Tomoo Marukawa

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story