コラム

東北被災地の「万里の長城」工事をなぜ止められないのか

2017年10月25日(水)18時29分

政治が無駄を止め、一度決めたことでも間違いならやめる決断を

日本人は年々、内向き志向を強めている。特に若者はインターネットを見るだけで満足して海外に行こうとしない。だが海外を見て国際的視野を広げれば、多くの新たなアイデアが得られる。自らの不足を知ることができる。国際的視野から気仙沼のローカルな問題を真摯に考える臼井さんの話を聞いて、改めて海外を知ることの重要性に気づかされた。

前述したとおり、防潮堤の建設はもともと現地住民が賛成していた話だ。だが作り始めてすぐに間違いだと悟った。今では現地住民の80%が反対しているというが、それでも一度決まった公共事業は止まらない。

完成した防潮堤はまだごく一部に過ぎない。今からでも工事をストップし、その分の予算を生活復興、企業振興に充てるべきだ。おそらく誰もが同意するプランだが、「一度決まったことだから」という思考停止によって、望まれていない防潮堤工事が続けられている。

私は日本人の生真面目さが好きだ。決めたことはやり遂げる職人精神は素晴らしい。だが、そうした精神を持っていたとしても、もっと柔軟な発想をするべきではないか。間違いのない人間などいないのだ。試してみて失敗だと分かったなら、すぐにやめてしまえばいい。

巨額の税金を無駄にして、ゼネコン以外は誰も喜ばない公共事業が続いている。政治がこうした無駄を止めなければならない、一度決めたことであっても間違いならばやめる決断をしなければならない。

日本政治のレベルアップこそ復興の近道。今回の東北ツアーで得た教えだ。

【参考記事】福島の現状を知らない中国人に向けてVICEで記事を書いた

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インタビュー:自動車産業の再編「簡単ではない」、投

ビジネス

午前の日経平均は反落、円高を警戒 物色面では幅広く

ワールド

米国務長官、無効化したビザ数千件 移民問題対策で

ワールド

江藤農相が辞表提出、コメ巡る発言で責任 後任に小泉
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 3
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到した理由とは?
  • 4
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 5
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 6
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 7
    【裏切りの結婚式前夜】ハワイにひとりで飛んだ花嫁.…
  • 8
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 9
    トランプは日本を簡単な交渉相手だと思っているが...…
  • 10
    小売最大手ウォルマートの「関税値上げ」表明にトラ…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 5
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 7
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 10
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 10
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story