コラム

ドミニク・モイジが読み解くフランス大統領選「怒り」「怖れ」「ノスタルジー」3つのキーワード

2017年04月10日(月)06時00分
ドミニク・モイジが読み解くフランス大統領選「怒り」「怖れ」「ノスタルジー」3つのキーワード

フランス大統領選で決選投票に進みそうな極右・マリーヌ・ルペンのポスター Gonzalo Fuentes-REUTERS

<フランスを代表する国際政治学者ドミニク・モイジ、接戦のフランス大統領選を語る。これは悲観主義と楽観主義の戦いだ>

フランスを代表する国際政治学者で仏モンテーニュ研究所首席顧問ドミニク・モイジ(70)が4月6日、ロンドンの欧州ジャーナリスト協会(AEJ)の月例会で講演し、間近に迫ってきたフランス大統領選について「欧州連合(EU)離脱を選択したイギリスの国民投票、トランプ大統領を選んだアメリカの大統領選と同じように、怒り、怖れ、ノスタルジーがキーワードになっている」と指摘した。

11人中9人の候補が「怒っている」

4月3~6日に実施された仏世論研究所(Ifop)などの世論調査では、EU離脱を問う国民投票の実施と単一通貨ユーロ圏からの離脱を公約に掲げる右翼ナショナリスト政党「国民戦線」の党首マリーヌ・ルペン(48)が24.5%。前経済産業デジタル相で中道政治運動「前進!」のエマニュエル・マクロン(39)を0.5%ポイント引き離している。

2人が決選投票に進むと、マクロン60%、マリーヌ40%となり、マクロンの優勢が予想されている。しかし、モイジは「世論調査で棄権すると答えている人の割合は35%にのぼっている。これまでフランスでは大統領選への関心は非常に高く、棄権の割合は通常20%前後にとどまっていた」と指摘した。2007年と12年の大統領選では棄権はそれぞれ16.2%と20.5%。右派の共和党、左派の社会党という既存政治が有権者の信頼を失っていることを改めてうかがわせた。

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フランスを代表する国際政治学者、モイジ Masato Kimura

モイジは続ける。「1回目投票の17日前だというのに、まだ40%もの人が誰に投票するか決めていないと世論調査に答えている。07年は20日前にサルコジが大統領になると断言できた。12年の大統領選でもオランドが当選すると予想できた。しかし今回は違う。どう転ぶのか私にも分からない」

11人の候補者が登場した4月4日のTV討論では2時間にわたって失業や移民、欧州について激論が交わされた。モイジは「うち9人の候補が怒っていた。他者に対する怖れ、自分たちのアイデンティーが失われることへの怖れ、自分たちの国が支配力を失うことへの怖れ、そして未来への怖れがある」と分析する。

イギリスでは04年のEU拡大後に大量に流入したポーランド人の配管工に対する、アメリカではヒスパニック系移民に対する、欧米のあらゆる国でイスラム教徒に対する怖れがポピュリズム政党によって作り出されている。

「第一次大戦前後、イギリス貴族の邸宅を舞台に伯爵一家と使用人の生々しい愛憎劇を描いたTVドラマ・シリーズ『ダウントン・アビー』の時代のような偉大なイギリスへの回帰を望むノスタルジー、そんなものは今やありもしないのだが、ダウントン・アビー・シンドロームがはびこっているように感じる。ルペンも好きなTV番組に『ダウントン・アビー』を挙げている」

トランプのアメリカも、白人が中心だった1950年代、多くの労働者が中産階級だと感じることができた時代、毎年豊かになっていることが実感できた時代へのノスタルジーに取りつかれているかのようだ。フランスでも同様に、偉大だった時代へのノスタルジーが広がっている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com

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