コラム

顧問・相談役制度への批判が高まっているのにやめられないワケ

2017年11月07日(火)12時30分

写真はイメージです。 Jirsak-iStock.

<来年から「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」で顧問・相談役の役割の明示がなかば義務化されても、日本型のガバナンスを見直さなければ何も変わらない>

東芝の不正会計問題などをきっかけに、企業の顧問や相談役に対する風当たりが強まっている。東京証券取引所はこうした事態を受け、上場企業に対して顧問制度の内容について開示するよう求めているが、この制度は日本型雇用システムと密接に関係しており、撤廃するのは容易ではない。こうした慣行を一掃したいのであれば、日本型雇用システムそのものに手を付ける必要がある。

今年の株主総会では顧問制度への批判が続出

多くの日本企業では、退任したトップ経験者などを顧問あるいは相談役という形で処遇し、経営に関するアドバイスを求める慣習がある。この役職はコーポレート・ガバナンス上、明確な権限や責任が生じるものではないため、彼らが社内でどのような影響力を持っているのか、外部から把握することは容易ではない。

単純にアドバイザーとしてのみ振る舞うのであれば、それほど大きな問題は生じないが、トップ退任後も院政を敷きたいという意向を持った人物が顧問や相談役に就任するとやっかいなことになる。本人にその意思がなくても、社内政治を有利に進めるため顧問や相談役を利用する人も多いので、結果的に経営判断を歪めてしまう。結局、こうした役職は業績が悪化したタイミングなどにおいて「老害」と批判されることになる。

今年の株主総会では、顧問や相談役に対する質問が相次ぎ、株主がこの制度に対して強い疑念を抱いていることが明らかとなった。東証はこうした事態を受け、上場企業に対して顧問制度の内容について情報開示するよう求めており、2018年から制度の運用を開始する。

東証の意向を受け、早速、情報開示に踏み切る企業も出てきている。メガバンクのみずほフィナンシャルグループは10月6日、自社の顧問制度の概要について明らかにした。

公表された資料によると、同社には相談役という役職は存在しいていないものの、元代表取締役社長など重要なポストを経験した人物については顧問として処遇するケースがあるとしている。現在、7名の名誉顧問が在籍しており、経済団体活動や社会貢献活動などに従事しているという。報酬はなく、経営に関与しないことが原則だが、自社にとって重要な対外活動を担う場合に限り、2000万円を上限に報酬を支払う。

今後の制度運用については、常任顧問には社長またはカンパニー長経験者のみが就任できるものとし、任期は66歳までに制限する。ただし社長経験者の場合には名誉顧問に就任することも可能だという。

同社の場合、報酬は発生せず、経営に関与しないことが明文化されてはいるが、顧問制度そのものについては継続を望んでいるようである。おそらく多くの上場企業が似たようなスタンスだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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