コラム

シャープやジャパンディスプレイと長時間労働のただならぬ関係

2017年08月29日(火)12時00分

オフィスビルの建設ラッシュも実は経済にマイナス?

こうしたムダな資産が積み上がっていくと、設備投資の効率が悪くなり、結果的に日本全体の付加価値であるGDPも伸び悩むことになる。やがて過大な資産による減価償却費が利益を圧迫し、結果的に雇用者報酬を引き下げてしまう。シャープとJDIはかなりひどい部類に入るだろうが、日本全国でこうしたムダな設備投資が行われているとしたらどうだろうか。これではビジネスが労働集約的になり、長時間残業を続けなければ、同じ収益を維持できなくなるのも無理はない。

投資した資産が無駄になり、これが労働者の報酬を犠牲にするという点では、このところ首都圏で続いているビルの建設ラッシュも同じ結果をもたらす可能性がある。

現在、首都圏ではあちこちにクレーンが立ち並び、オフィスビルの建設ラッシュとなっている。築20年程度のビルまでもが次々に取り壊され、新しいビルに生まれ変わっている状況だ。東京オリンピックの開催という特殊要因もあるが、理由はそれだけではない。

【参考記事】途上国型ワーカホリックから、いまだに脱け出せない日本

新しいビルであれば、周辺の古いビルからテナントを奪えるので、リスクが少なく銀行にとっては融資しやすい案件となる。企業にとっても、生産設備や新規事業に投資するよりもオフィスビルを建てた方がより簡単に収益を得られる。

だが経済全体で見た場合、建設した時の支出はGDPに貢献するものの、他のビルからテナントを奪うだけなので、その後の経済成長にはあまり貢献しない。しかも築年が浅いビルを取り壊した場合、新しいビルの減価償却に加え、以前のビルの減価償却も経済全体で負担する必要が出てくる。

本来なら収益を生み出せる資産を損失処理してしまっているわけだから、投資の額に比べて生み出す付加価値が小さくなるという点では、JDIやシャープと本質的な違いはない。

日本社会はどうしても量にばかり目が行きがちだが、大事なのは量だけでなく質である。日本の設備投資が本当に効果を発揮しているのかもう一度検証する必要があるだろう。そうすれば、自ずと働き方改革の方向性も見えてくるはずだ。

【参考記事】日本の睡眠不足がイノベーション社会への変革を阻害する

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プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネスなどの分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『スタグフレーション』(祥伝社新書)、『本気で考えよう! 自分、家族、そして日本の将来』 (幻冬舎新書)など著書多数。

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