コラム

令和の時代に昭和の政治......首相は実は誰でもいい

2023年12月26日(火)14時00分
岸田首相

令和の首相に期待されるのは、旗振り役、ムードメーカー、対外代表役 FRANCK ROBICHON/POOL/REUTERS

<無能でも悪逆でもないのに、岸田首相が世論にたたかれる理由。本誌「ISSUES 2024」特集より>

阪神タイガース優勝の翌年は、株価が上がる。しかし岸田政権は、違うジンクスを心配する必要がある。それは、「強力な首相の後は短命政権が続く」ということだ。中曽根政権の後の8年では総理が6人代わり、小泉政権の後の6年でも6人が代わっている。今、史上最長の安倍政権からまだ3年だ。

岸田文雄首相は無能でも悪逆でもないのに、なぜかたたかれる。実直一辺倒に見える岸田首相を、マスコミも世論もたたきたくなるのだろう。


親米・反米、資本主義・共産主義で争った、古き良き時代は過ぎた。ソ連崩壊は共産主義の限界を見せつけたし、隣国中国の台頭で日米同盟の維持、日本の防衛力強化に野党は反対できない。政治問題で与野党が対決する、政治の時代は終わったのだ。世は、行政の時代になった。

だから、ドラマがない。問題が起きると岸田首相は、「あ、その問題は意識しています。処理します」と言って、1カ月くらいすると、それらしい閣議決定をする。この10年来、首相官邸の力は強化されているし、国会は与党・自民党が多数を押さえているので、それで通ってしまう。われわれは閣議決定を見て、「え、本当? これで一件落着?」と自問自答し、以後その件を忘れる。

だから岸田政権は、支持率が下がっても、自分で辞めると言い出さない限り、2024年9月の任期いっぱいは残れる。今は派閥の領袖がすくみ合いで、倒閣して次期首相の座を狙う意欲と力を持つ者がいない。

日銀が利上げをうまく処理して経済が持てば9月の自民党総裁選でも岸田首相が勝つ、とみる人もいる。だが、「いや、岸田首相とのツーショットでは総選挙で勝てない」という声が自民党内で高まると、21年9月の自民党党大会の直前に、(当時の)菅義偉首相が詰め腹を切らされたようなことが起きるだろう。

言われるほど経済は悪くない

その場合、今の派閥の力関係から推測すると石破茂、河野太郎、林芳正の3人が議員票では浮上する。あとは議員票と同数に数えられる党員・党友の投票がどうなるかで、これは読めない。

しかし政局とか選挙とか、そんなに大騒ぎをする必要はあるのか? われわれの生活、そして日本の力は経済で支えられている。日本経済の成長力を支えるのは経常収支の黒字だが、これを支える輸出規模は約7500億ドルで、この15年来ほぼ変わっていない。日本経済は言われるほど悪くないのだ。この中で首相に期待されているのは、旗振り、ムードメーカー、そして対外代表役だ。

今の日本の政治は社会の実勢、特に現役世代の気持ちからずれている。令和の現代を、昭和世代の心持ちでさばいている、とでも言おうか。

その辺りをきちんとやってくれれば、首相は実は誰でもいい......のかもしれない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

NYタイムズ、パープレキシティAIを提訴 無断複製

ワールド

プーチン氏、インドに燃料安定供給を確約 モディ首相

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、12月速報値は改善 物価
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 4
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 5
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 6
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 10
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story