コラム

大幅増の防衛費に財務省が出さない「ヘソクリ」あり

2022年12月22日(木)10時45分

防衛力強化は大きな課題だが(写真は22年11月の日米合同演習) UPI/AFLO

<社会保障や震災復興には国債をあれだけ発行した財務省が、安全保障という一大事にはなぜ財源がないと言い張るのか?>

「国家安全保障戦略」など防衛関連三文書の改訂、防衛予算の大幅増額......。今の日本が抱える大きな課題への取り組みが順調に進んでいる。これはやはり、現代でも戦争を仕掛けてくる国が本当にあることを示したロシアや北朝鮮、そして自分で戦うからこそアメリカも支援することを示してくれたウクライナの「おかげ」だ。

でもあまりに順調で「こんなことってあるのか」と思っていたら案の定、「カネをどうする! もっと稼いで(税を取って)きなさい」という会計担当=財務省の一言で舞台は暗転した。ロシアでは「動員」と言われると国民は戦争が嫌になり、日本では「増税」と言われると国民は何ごとにも二の足を踏む。

北朝鮮のミサイルを怖がる日本人全員が、北朝鮮の基地を攻撃できるミサイルを自前で持ちたいと思っているわけではない。「戦争は嫌だ。戦争は悪だ」と感じていても、それ以上はまだ考えていない人たちが多いだろう。そういう人たちの心理をあえて考えてみると、こんな感じか。

──北朝鮮は正気でなくても、まさか本気でミサイルを日本に撃ち込んではこないだろう。アメリカがもっと優しく出れば、北朝鮮も中国も武力を使うことはないだろう。アメリカが退いても、日本は中国と仲良くやっていけばいい。「強い者には巻かれろ」と言うじゃないか──。

そもそも世論は、自分で考える時間と材料を与えられていない。相手の基地への攻撃、そのための中距離ミサイルの購入など、多くのことが政府・与党内部でどんどん決まり、国民は議論に参加した実感がない。国会での審議は、予算案が確定した1月以降になる。野党が何を言おうが、予算案はもう修正されない。野党は審議を止めて予算案を葬り、それで総選挙に持ち込む荒業に訴えるか、国会外での反対運動を盛り上げるか、そのくらいしか手はないのだ。

中国に「巻かれ」たらどうなるか

与野党のもみ合いで予算を作る米議会に比べると、これは随分硬直したシステムに思える。議会に多くの権能を与えなかった、明治の大日本帝国憲法の名残かとも思う。英国議会でも、審議の過程で法案が修正されることは多い。そして日本の野党は院外闘争を盛り上げるにしても、何を争点にしたらいいのか? 安全保障能力の強化、自前の防衛力強化については、ほぼ全ての野党が賛成だろう。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、政府閉鎖中も政策判断可能 代替データ活用=

ワールド

米政府閉鎖の影響「想定より深刻」、再開後は速やかに

ビジネス

英中銀の12月利下げを予想、主要金融機関 利下げな

ビジネス

FRB、利下げは慎重に進める必要 中立金利に接近=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が語る「助かった人たちの行動」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 9
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story