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アングル:ドバイの「安全神話」揺らぐ、イラン報復攻撃で国際資本流出の懸念

2026年03月04日(水)09時35分

ドバイのランドマークとなっている高級ホテルのブルジュ・アル・アラブ。イランによる攻撃を受けた。3月1日撮影。REUTERS/Amr Alfiky

Hadeel Al Sayegh Rachna Uppal Federico Maccioni

[ド‌バイ/アブダビ 2日 ロイター] - アラブ首長国連邦(UAE)のドバイを長年支えてきたセールスポイント‌は、きらめく摩天楼や免税といった実利だけではない。「中東で何が起きていても、この街だけは違う」という暗黙の了解も含ま​れていた。地域を揺るがす紛争も、どういうわけかドバイ首長国の国境手前で止まるはずだった。

2月28日、その全てが一変した。湾岸全域に及んだイランの報復攻撃はドバイの基幹産業を直撃し、空港、ホテル、港を破壊した。

ドバイは不安定な近隣⁠諸国を尻目に、40年かけて世界で最も信頼できるビジネス拠点の1つとしての​存在意義を構築してきた。今回の攻撃は、この都市の拠り所となっていた心理的基盤をも打ち砕いた。

米国の緊密な同盟国であるUAEの当局は、物理的な被害と同様に、信頼の失墜を食い止めるべく迅速に動いた。

UAEの国家安全保障協議会は、状況は引き続きコントロールできていると述べた。飛来するミサイルが街のランドマークを攻撃するのを横目に見つつ、投資家や住民らは物資の備蓄を急いでいたが、当局が繰り返す「安全の保証」という言葉は彼らの耳にひとまずは届いた。だが、それが人々の不安を拭い去るのに十分だったかどうかは、また別の話だ。

「ドバイの経済基盤に与える打撃は計り知れない」。米ライス大学ベーカー研究所のフェロー、ジム⁠・クレーン氏はそう述べた。

「物理的な損傷自体は軽微にとどまり、人々の動揺も今はまだ心理的な域を出ないかもしれない。だが、外国人居住者や事業の『セーフヘイブン』(安全な避難所)というドバイの地位は揺らいでいる。紛争が長引くほど、より安全な移転先を探す動きは加速するだろう。

ドバイにとっては、この戦争が今すぐ終結すること⁠が必要だ。危険と​判断した際の国際資本の逃げ足は早い」

日曜日に取引を行わないUAEは、異例の措置として週明けの3月2日と3日に取引を停止した。

米アマゾン・ドット・コムのクラウドサービス部門アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は1日、UAEのデータセンターで物体が衝突し火災が発生、電力供給が遮断されたと説明した。障害は翌日も続き、関係者によるとAWSを利用する金融機関に影響が及んでいる。

<ドバイブランドの構築>

真珠漁と漁業を営む小村だったドバイは、数十年かけて世界の金融センターへ変貌を遂げた。1985年のエミレーツ航空の創業、99年の高級ホテル「ブルジュ・アル・アラブ」の開業。そして2000年代初頭、外国人に初めて不動産所有を認めた法律。これらが「ドバイブランド」の柱だった。

同国経済はほぼ完全に非石油部門が支えており、石油部門が国内総生産(GDP)に占める比率は現在2%未満に過ぎない。ロンドンやニューヨークにならった規制の枠組みを基盤に、貿易、観光、高級不動産、金融サービスを融合させた経済構造が、石油に代わる屋⁠台骨となった。UAEの石油埋蔵量の90%以上を保有する隣国アブダビは、経済成長を石油収入に依存したままだ。

かつて中東地域における国際金融の中心地はレバノンの首都‌ベイルートだったが、1970年代の内戦でそのイメージは崩壊。空白をしばらくの間バーレーンが埋めた後、台頭したのがドバイだ。

中東における歴代の金融センターはいずれも、「地域のどこかで危機が発生し⁠ても、ここに来れ⁠ば安定的で開かれた環境がある」という共通の約束を掲げて地位を築いてきた。ドバイはその約束を、かつてのどの都市よりも徹底して形にしてみせた。

ドバイの躍進自体、他国の不安定さの上に成り立ってきた側面がある。内戦を逃れてきたシリア人、「アラブの春」に動揺した富裕層、そして最近ではウクライナとの戦争から避難してきたロシア人など、新しい居住者らがこぞって、ドバイ首長国に資本と才能を注ぎ込んだ。

UAE全体の人口は、1980年の約100万人から2024年には1100万人へと膨れ上がった。コンサルティング会社ヘンリー&パートナーズによれば、昨年UAEには過去最高となる9800人の富裕層が流入したとみられ、世界中のどの国をも凌ぐ勢いを見せていた。資金は不動産市場に流れ込み、ドバイの開発業者エマール‌・プロパティーズの株価は2月25日に過去最高値を記録。同社の企業価値は一時、約1490億ディルハム(406億ドル)に達した。

04年のドバイ国際金融センター(DIFC)の設立は、世界から金融機関を呼​び込む動きに拍車‌をかけた。25年末までに、DIFCには290以上の銀行、102のヘッジファンド、500の資産管理会社、1289の⁠一族資産管理法人が拠点を置いていた。

<2月28日に何が変わったか>

だが、危うさは常に潜んでいた。

海上​輸送される原油の5分の1程度が通過するホルムズ海峡は、ドバイのすぐ目と鼻の先だ。湾岸貿易を揺さぶる動機も能力もあるイランは、海を挟んだすぐ向かい側に位置している。

イランの報復による物理的な損害は厳しいものだった。ドバイ国際空港は損傷し、近郊のジュベル・アリ港の岸壁は炎上、ブルジュ・アル・アラブは迎撃ミサイルの破片により被害を受けた。UAEの国防当局によれば3人が死亡し、58人が負傷した。

「人々は先行きに不安を募らせている。地下へ避難しなくてはならなくなったのは初めてのことだ。世界最大級のドバイ空港が何日も閉鎖に追い込まれている」。エドモン・ドゥ・ロスチャイルド・アセットマネジメントの運用責任者、ナビル・ミラリ氏はこう述べた。同氏は前週、イランへの攻撃の可能性を見越して全世界の株式への投資比率‌を引き下げていた。

「この地域に長期間にわたって地政学的リスクプレミアムが乗り続ける確率は、70%ある」とミラリ氏は言う。

UAEに拠点を置く中堅投資会社には、そのような事態を見越して人員削減を始め、すでに資金調達を停止しているところもある。宝飾業界の情報筋によれば、金地金の備蓄需要が急増した。ある運用担当者によれば、ドバイで資産管理​・助言業務を拡大していた外資系金融機関の間でも、拠点縮小を検討する動きが出始めている。現地で顧客⁠対応を続けるべきか、他国から遠隔で対応すべきか、再考を迫られる可能性があるという。

「歴史的にUAEのような市場は、強力な政策と企業統治に支えられ、新型コロナの感染拡大を含む危機の際にも回復力を示してきた」。エレベート・フィナンシャルサービスの創設者兼最高経営責任者(CEO)であるマドゥール・カッカー氏はそう述べた。

「現段階では、緊張状態が大幅に高まるか長期間継続しない限り、UAEや湾岸地域から機関投資家の資金​が一斉に引き揚げられ再配置されるような、構造的な変化が起きる可能性は低い」

いまのところ資金流出を示すデータはない。3月2―3日のアブダビおよびドバイ証券取引所での取引停止は、UAEの規制当局にとって前例のない措置だ。

「認識が根本から覆された」と、キャピタル・エコノミクスのチーフ新興市場エコノミスト、ウィリアム・ジャクソン氏は述べた。「湾岸経済は一般的に、イランの報復とは無縁だと信じられてきた。その前提がこの週末で完全に崩れたと思う」

影響は紛争がどれだけ続くかに左右されるだろうとジャクソン氏はみている。

「ただ、これは極めて重大な試練だ。特に、この地域が推し進めてきた経済の多角化戦略にとっては正念場となるだろう」

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