焦点:行き詰まるNATO運営、グリーンランド巡るトランプ氏の「横車」で
写真はグリーンランドの最大都市ヌークに建つハンス・エゲデ像。1月14日撮影。REUTERS/Marko Djurica
Lili Bayer Andrew Gray
[ブリュッセル 15日 ロイター] - 過去数十年にわたって欧州の安全を守ってきた北大西洋条約機構(NATO)は、トランプ米大統領がデンマーク自治領グリーンランドの領有に熱意を燃やしていることで、今後の方向性を決めるのが難しくなってしまった。
トランプ氏は、米軍によるベネズエラ攻撃後にグリーンランド領有意欲を再燃させた。その理由として挙げたのは、中国とロシアが北極圏とそこに眠る資源により大きな関心を示す中で、グリーンランドの防衛が脆弱になっているという点だ。
米国以外のNATO加盟国は、こうしたトランプ氏の批判に対処するための構想を取りまとめようと躍起になっている。
もしも米国が力ずくでグリーンランドを併合すれば、NATOの加盟国が別の加盟国の領土を得るという前代未聞の出来事になる。
欧米の政治家や外交官、専門家の話では、そうした事態はNATOの終焉(しゅうえん)か、少なくとも足場がひどく弱まることを意味する。転じて欧州の安全保障に破滅的な打撃を与え、ロシアの攻撃に対して欧州全土が現在よりもずっと脆弱になりかねない。
南デンマーク大学教授でNATOに関する多数の著作があるステン・リュンニング氏は「これほどNATOが危機にさらされた例は、ましてその原因が米国だったことなど到底思い浮かばない」と語った。
<早速の行動>
複数の外交官は、グリーンランド防衛に関するNATOの議論はまだ始まったばかりだが、航空機による偵察や海上警備、テクノロジーの利用拡大による監視活動などが検討内容に含まれていると明かす。
NATOとしての集団的決定を待たず迅速に行動するため、デンマークはドイツ、フランス、ノルウェーなどとともに14日、グリーンランドへの小規模ながら象徴的な部隊の派遣を発表した。北極圏の安全保障にコミットする姿勢を示すための演習を行うためだ。
<かみ合わない意見>
北極圏の安全保障強化という試みを通じてNATOの一体性を維持できるのは、トランプ氏が米国のグリーンランド領有の代替措置、あるいは包括的な代替措置の一部としてそれを容認する場合だけだろう。
しかしトランプ氏は繰り返し、米国の領有以外意味がないと主張。そのため多くの欧州諸国の指導者は、トランプ氏の動機は安全保障上の理由ではなく、米国の領土を拡大したいという願望だと結論づけている。
元NATOの政策企画局長で現在はラスムセン・グローバルの最高経営責任者(CEO)を務めるファブリス・ポティエ氏は「NATOは真剣な形での北極圏の監視・抑止戦略を具体化することで、解決策の一助になり得る。しかしNATOの信頼性はこれまでの(グリーンランドを巡る)緊張で副次的なダメージを受けている。トランプ氏の発信により、米国のNATOに対するコミットメントに疑念が生じた。この疑念はなかなか忘れ去られないだろう」と述べた。
トランプ氏は先週、米国は引き続きNATOにコミットし、中国とロシアがNATOを恐れるのは米国が加盟している場合だけだと強調。一方でグリーンランドが米国領になれば、NATOは今よりはるかに強力な同盟になるとも語った。
<軍事オプション>
NATOは、2022年のロシアによるウクライナ侵攻で戦火が東部の加盟国国境に迫り、次はどこかの加盟国がプーチン大統領の直接の標的になるのではないかと懸念し、東端部の防衛力強化を進めてきた。
その中で持ち上がったグリーンランドを巡るNATO内部の対立は、多くの加盟国にとって歓迎できないし、危険で余計な要素と言える。
デンマークとグリーンランド自治政府の指導者は、グリーンランドは売り物ではなく、米国の一部にもなりたくないとの主張を続け、欧州各国の指導者もそうした考えを支持している。
トランプ氏はグリーンランド領有に関して軍事的オプションは排除しないと再三発信しているが、欧州の多くの外交官の見立てでは実際に米軍が動く公算は乏しい。
ただ本当にそうなれば、大変な事態を招くだろう。ある東欧の国の高官は、NATOを崩壊させるリスクを伴う激震が走ると言い切った。
グリーンランドもNATOの一部なので、既に集団自衛を定めた北大西洋条約第5条の適用範囲だ、とデンマークや他の欧州当局者は指摘する。つまりロシアないし中国がトランプ氏の示唆するように、グリーンランドを奪おうとすれば、米国を含むNATO全体との戦争を覚悟しなければならない。
さらに米国は既にグリーンランドにピトフィク宇宙基地を所有し、約200人の部隊が駐留しているほか、1951年の協定に基づいて希望するだけの追加部隊展開も可能とされる。
<課題は認識>
それでも外交官らの話では、これまで主としてデンマーク、ノルウェー、フィンランド、カナダといった地域諸国が担ってきた北極圏の安全保障について、NATO全体としてより多くの取り組みをするべきだという点で、加盟各国の意見は一致している。
NATOのルッテ事務総長は14日に「北極圏に関してわれわれは協力していかなければならない。次のステップをより詳しく詰めて、NATOとして一体的に動ける道筋を確保しいこうとしているところだ」と述べた。
またルッテ氏は、北極圏の安全保障強化を強調したトランプ氏は正しいと言及。デンマークがこの地域をより適切に防衛するため、F35戦闘機や長距離ドローン、空中給油能力などへの投資を増やしていると説明した。
もっともNATOは合意に基づいて運営されている以上、安全保障の枠組みを大きく変えるには米国を含む加盟32カ国全ての同意が必要になる。
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