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アングル:物価高巡るトランプ氏発言、選挙戦で共和党の弱点になりかねず

2025年12月12日(金)16時08分

写真は12月9日、ペンシルベニア州マウントポコノで集会を開くトランプ大統領。REUTERS/Jonathan Ernst

Tim Reid Nandita Bose Nathan Layne

[ワシントン 11日 ロイター] - トランプ米大統領(共和党)が「アフォーダビリティー(価格の手ごろさ)」という言葉をあざけるような発言を繰り返していることに対して、共和党の候補者や組織のために選挙戦略などを練るストラテジストの間で懸念が広がっている。生活費の高騰は来年11月の中間選挙に向けて有権者にとって最重要な関心事になっているだけに、トランプ氏がこうした態度をしつこく取り続ければ、この問題で国民を安心させようとする政権の取り組みが損なわれる可能性があるためだ。

トランプ氏が9日夜に東部ペンシルベニア州の集会で支持者向けに行った演説で、こうした懸念が浮き彫りになった。ホワイトハウスはこの演説を、物価高に苦しんでいると訴える有権者に十分な関心を向けていないという批判に対し、トランプ氏が説明する第1弾と位置付けていた。しかし、1時間半に及ぶ演説は「アフォーダビリティー」という言葉への攻撃へと脱線。トランプ氏は、この言葉は生活費を大げさに見せるために野党の民主党が使った「でっち上げ」だと決めつけて嘲笑。物価が高いと認めつつ、経済は好調で、賃金は増えていると主張した。

だが、共和党ストラテジストは、トランプ氏は「アフォーダビリティー」という言葉へのこだわりを捨て、物価引き下げの明確な計画を示すことに集中すべきだと指摘している。

共和党コンサルタントのジェイソン・ケーブル・ロウ氏は「アフォーダビリティーが作り話だという主張を繰り返すことは経済の実体を無視している。トランプ氏はもっと良い対応をする必要が絶対にある」と言い切った。

政府統計よると、第2次トランプ政権下では雇用の伸びが鈍り、失業率は過去4年で最高水準に上がったが、消費者物価は高止まりしている。全体として、景気は2025年第1・四半期に小幅なマイナスとなったが、その後は成長がいくらか持ち直している。

<政権はトランプ氏を擁護>

トランプ氏の側近と定期的にやり取りしている関係者によると、側近らも国内経済についてもっと触れるべきだと認めている。

ホワイトハウス高官2人は匿名を条件に、アフォーダビリティーを軽視するトランプ氏の発言は米国の一般市民が直面する課題を理解していないように映るという指摘を否定。一方で、共和党議員の一部に不満が出ていることは認めた。ホワイトハウスのクシュ・デサイ報道官は、トランプ氏の経済への注力ぶりを擁護。9日の演説について「トランプ政権がアフォーダビリティーを引き続き優先していることを一般市民に改めて示すものだ」と言い張った。

ロイター/イプソスの最新の世論調査によると、トランプ氏の支持率は41%とわずかに上昇し、食品輸入への一部関税撤回やインフレ抑制に関する発言が追い風になった。ただ、生活費に関する取り組みへの評価は31%にとどまった。

政府関係者によると、トランプ氏は来年、共和党候補者を支援するために各地で遊説し、自身の経済政策の成果を強調する計画だ。トランプ氏は自身が打ち出した減税と外国製品への関税によって家計の懐は潤うと主張している。

トランプ氏は10日にホワイトハウスで記者団やハイテク企業幹部と懇談した際にも、民主党はアフォーダビリティーを取り上げ続けていても「その内容には全く触れない。選挙は手頃な価格が争点だと言うだけだ。まあ、そうかもしれないが、国境問題も依然として争点だ」と訴えた。

ペンシルベニア州のシャピロ知事(民主党)はSNSに、トランプ氏は演説で「目の前の現実を信じるなと言っている。生活費が急騰し、食料品店で価格上昇しているというのに」と投稿した。

<有権者の関心は経済>

トランプ氏は9日の集会で「米国を再びアフォーダブルな国にするのは最大の優先課題だ」とし、物価の高さはバイデン前大統領(民主党)の責任だと決めつけて非難した。

共和党ストラテジストのジョン・フィーヒリー氏は、こうした発言は有権者に向けて発信すべき重要なメッセージだとしつつ、発言のトーンが重要だと付け加えた。「人々が良い状態だと感じていないときに、大丈夫だと言い聞かせるのは非常に難しい」と話す。

ペンシルベニアを拠点とする共和党のストラテジスト、チャーリー・ジェロウ氏は、9日のトランプ氏の発言は、おそらく中道派や無党派層にとって「空虚」に聞こえただろうと指摘。両層は影響力の大きい有権者集団であり、共和党が議会で過半数議席を維持するためにはトランプ氏が両層の支持を獲得することが不可欠となっている。

ジェロウ氏は「トランプ氏は経済のことに強く集中し続ける必要がある」と強調。9日のようにトランスジェンダーの権利や、風力タービンといった話題に脱線することは「役に立たない」との考えを示した。

ロイター
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