焦点:香港火災で市民の不満爆発も、政治統制進める中国政府に試練
写真は上層階から炎と煙が上がる高層住宅。11月27日、香港北部・新界地区大埔(タイポ)で撮影。REUTERS/Tyrone Siu
Greg Torode Antoni Slodkowski
[香港/北京 27日 ロイター] - 香港北部・新界地区大埔(タイポ)の高層住宅群で26日に発生した大規模火災は、2019年の大規模な民主化デモ以降、国家安全維持法(国安法)の施行などで香港への政治的な締め付けを強めてきた中国政府にとって、最大の試練になろうとしている。
香港の政治から民主派は一掃され、12月7日に投開票が迫る立法会(議会)選挙には、政府が「愛国者」と認めた候補者しか出馬できない。
一方で香港政府と中国共産党はすぐさま、今回の悲劇を重大視する姿勢を示し、警察は住宅改修工事を請け負っていた企業の責任を巡る捜査に着手。この企業の幹部ら3人が過失致死容疑で逮捕された。
しかし複数の専門家によると、香港の不動産価格高騰が長らく市民の不満の種となってきた下地があるだけに、当局が政治的統制を強化する取り組みを進めているにもかかわらず、今回の大規模火災が当局への反感を一気に高める可能性があるという。
香港の政治に関する複数の著書を執筆している政治学者ソニー・ロー氏は「中国政府は2つの問題を非常に大事に考えていると思う。1つはこの悲劇に政府がどう対応するか、もう1つは香港政府に対する市民の認識が変わるかどうかだ」と述べた。
ロー氏は「政府は国家安全保障の面ではうまくやってきたが、それには人間の安全保障という側面も含まれる」と指摘する。
直近の情報によると少なくとも94人が死亡し、300人前後の消息が分かっていない。火災警報器の不備から工事現場労働者の喫煙、竹製の足場に至るまで、多くの住民はリスクが無視されていたのではないか、あるいは工事において安全を担保する仕組みが導入されていたのかと疑問視している。
避難所に身を寄せた被災者の中からは、過失やコスト削減が火災の原因であると批判する声が上がり、インターネット上でも同様の意見が相次いだ。
習近平国家主席は、まだ炎が住宅の窓から吹き上がっていた26日夜10時ごろ、消火と死傷者や被害を最小限にするため「総力を挙げた取り組み」を行うよう関係各所に指示した、と複数の国営メディアが伝えた。
習氏は「犠牲者や被災者の家族に哀悼の意を表明」するとともに、今回の事故を非常に重視し、救助活動や死傷者の状況を随時報告することを求めたとされる。
その4時間後には、避難所への視察を終えた香港政府トップの李家超(ジョン・リー)行政長官が記者会見を開き、消火と取り残された住民の救助を最優先とする方針を強調。「次に負傷者の手当て、その次は(被災者)支援と復旧、その後、徹底的な捜査を始める」と語った。
ただ、この会見からわずか3時間を経た時点で、警察は火災が広がった原因を明らかにした上で、改修工事担当企業の経営幹部2人と設計コンサルタント1人を逮捕したと発表した。
警察の説明では、建物全体を覆っていた防護ネットやプラスチックのシートが防火基準を満たしていなかった恐れがあるほか、被害を受けていない建物の一部の窓は発泡素材でふさがれていたという。
「この会社の責任者が重大な過失を犯した結果、火災が発生して制御不能な状態にまで拡大し、多数の犠牲者を生んだと考える根拠がある」と警察幹部は言及した。
<怒りの矛先>
香港ではデモは相当厳しく規制されているが、さまざまなネット上のフォーラムにはなおアクセス可能で、市民の心情をいち早く知る手掛かりになりそうだ。
複数の専門家は、市民の怒りは改修工事会社だけでなく、政府の防火安全措置や建設規制当局に向かう可能性があり、今回の火災に関する広範囲かつ公開形式での調査を求める圧力が高まるだろうと予想する。
香港政府は伝統的に、大規模な事故について公開の調査を設置してきており、その多くは独立した裁判官が主宰してきた。
例えば香港が英国から中国に返還される1年前の1996年、九龍中心部で41人が死亡した商業ビル火災では、その後の調査結果が政府の消防安全条例改正につながった。
だが、こうした取り組みだけでは、もはや十分とは言えない可能性がある。
香港建設業従業員総連合会のトップは「業界全体や政府の監督を含めて、防火安全と現場の安全管理を真剣に見直す必要があると考えている」と述べた。





