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アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上が喫緊の課題に

2025年04月26日(土)10時37分

 バングラデシュは国内繊維産業が生み出す膨大な廃棄物について、自国の低い処理能力をいつまでもそのままにしておくことはできないだろう。写真は、衣料品を作るバングラデシュ人労働者ら。4月9日、バングラデシュのガジプールで撮影(2025年 ロイター/Mohammad Ponir Hossain)

Md. Tahmid Zami

[ナラヤンガンジ(バングラデシュ) 23日 トムソン・ロイター財団] - バングラデシュは国内繊維産業が生み出す膨大な廃棄物について、自国の低い処理能力をいつまでもそのままにしておくことはできないだろう。世界中のアパレル産業が、環境汚染を減らす取り組みを迫られているからだ。

衣料品製造で世界第2位のバングラデシュは、繊維廃棄物のうちリサイクルするのはごくわずかで、残りは海外に持ち出されるか、放置されて環境汚染につながっている。

一方で衣類のリサイクル比率を高める規制を導入する国が増える中で、アナリストや事業主らは、バングラデシュもリサイクル能力を向上させて2027年までに94億ドル(約1兆3400億円)規模に達するとされる世界の繊維リサイクル市場から生じる需要に対応しなければならないと指摘する。

欧州連合(EU)は今月、繊維産業が引き起こす環境公害を減らす項目などを盛り込んだ製品の持続可能性に関する新たな基準を達成するためのロードマップを初めて公表。これによってバングラデシュなどの衣料品輸出国はリサイクル比率の引き上げや、ほとんど非正規労働者が占める繊維産業の労働環境改善が必要になると英王立国際問題研究所(チャタムハウス)のパトリック・シュレーダー上席研究員は解説した。

シュレーダー氏は「今後数年でリサイクルを求める声が広がり、ファストファッションが時代遅れになっていくのに伴って、数百万人の雇用が影響を受ける。バングラデシュは先を見据え、変化に乗り遅れないような取り組みを強化しなければならない」と述べた。

<非正規業者が大半を処理>

バングラデシュの繊維工場から出される廃棄物は年間で最大57万7000トンに上ると推計されている。

EUとフィンランド政府が支援する循環型高付加価値経済移行プロジェクト「スイッチ・トゥ・サーキュラー・エコノミー・バリュー・チェーンズ」の報告書によると、大半は海外に送られ、残った分は水路の妨げや土壌汚染をもたらすか、土地の埋め立てに使われたり、焼却されて有毒ガスを発生させたりする。

廃棄物選別・取りまとめのほとんどは非正規の業者が請け負っていて、マットレスや枕、クッションといった低価格製品の材料に回るケースもある。

首都ダッカで国連工業開発機関(UNIDO)のプロジェクトコーディネーターを務めるアサドゥン・ヌーア氏は、繊維工場から出た廃棄物を誰が引き取り、どういった価格設定をするか決めるのは政治家や影響力を持つ有力者だと指摘。「非常に不透明なプロセスで、衣料ブランドとサプライヤーにとって廃棄物のバリューチェーンの視認性を限定している」と付け加えた。

廃棄物はダッカ周辺のほとんど正規登録をしてない業者に渡され、そこで洗浄した後、品質や色などに基づいてまとめられる。

数万人に達する働き手の7割は女性で、昨年の国連児童基金(ユニセフ)による調査では毎日10-12時間も選別作業をしている。

労働者の話によると、きつい仕事に対する賃金は安く、重要な安全確保の措置は講じられていない。飲料水の提供や有給休暇、ハラスメント防止策もない。

ダッカに近いナラヤンガンジの処理業者で250人の仲間の女性とともに働くサブラ・ベグムさん(30)は「月給は約80ドル。家族を養うのは容易ではない」と明かした。

こうした業者で選別された廃棄物のごく一部だけがバングラデシュ国内のリサイクル工場に出荷され、大部分はインド、フィンランドといった外国にリサイクル目的で輸出される。これらの国のリサイクル施設はより大規模で、技術力も高い。

外国へ輸出された廃棄物で再生された繊維の一部はバングラデシュに戻り、再び衣類になる。

スイッチ・トゥ・サーキュラー・エコノミー・バリュー・チェーンズは、国内でのリサイクルを拡大すれば、バングラデシュは年間でおよそ7億ドルの輸入コストを節約できると提言した。

<前向きな動きも>

バングラデシュ企業の一部は競争力向上を目指し、適正な労働基準導入に動きつつある。

2017年には起業家アブドゥル・ラザク氏が新会社「リサイクル・ロー」を立ち上げ、今ではバングラデシュ最大級の廃棄物処理業者になった。

ラザク氏は「われわれは相応の賃金を提示し、基本的な労働基準を尊重しており、大半が女性の働き手のために飲料水や空調、安全を確保しているので、他社よりもずっと人が集まり、定着している」と述べた。

生産ライン強化に投資するリサイクル企業もあるが、ファッションブランドや開発金融機関の支援を伴う形でのケミカルリサイクルのような技術への大規模投資が必要になっている、とダッカ近くのアシュリアに拠点を置くリサイクル企業ブロードウェイ・リジェネレーテッド・ファイバーのアブドゥラ・ラフィ最高経営責任者(CEO)は強調した。

ただラフィ氏は、投資家が期待するのは常に廃棄物が供給されることで、現在の不透明な引き渡しの仕組みは撤廃しなければならないと強調。「今われわれに必要なのはブランドやサプライヤー、廃棄物処理業者、リサイクル業者間でより資金を融通し、協力して処理能力を拡大することだ」と話している。

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