ニュース速報

ワールド

アングル:ハリス米副大統領が正念場、バイデン氏再選に貢献できるか

2023年03月25日(土)07時43分

3月23日、ハリス米副大統領(写真右)は、2024年の次期大統領選で再選を目指すバイデン氏(同左)とともに引き続き副大統領候補として選挙戦に臨む。フィラデルフィアで2月に行われた党集会で撮影(2023年 ロイター/Elizabeth Frantz)

[ワシントン 23日 ロイター] - ハリス米副大統領は、2024年の次期大統領選で再選を目指すバイデン氏とともに引き続き副大統領候補として選挙戦に臨む。ただ政権発足以降の2年間で国民から高い評価を得たとは言えないだけに、これから正念場を迎えそうだ。

女性、黒人、アジア系としていずれも初めての副大統領となったハリス氏だが、支持率は今一つで政界の受けもあまり良いとは言えない。与党民主党内からも、これまでの仕事ぶりは期待値に達していないとの声が聞かれる。また80歳と高齢のバイデン氏の2期目が決まった後、同氏が途中で病気になるか執務に耐えられなくなった場合、ハリス氏が大統領の職務を引き継ぐという意味で重圧もかかる。

バイデン氏とハリス氏の人間的な関係は良好とはいえ、複数の民主党関係者はバイデン氏がハリス氏の幾つかの仕事には不満を持っていると明かす。元ホワイトハウス高官の1人は、ハリス氏はもちろん他のどの「民主党のホープ」であっても、トランプ前大統領が共和党の次期大統領候補指名を獲得すれば彼に勝利できない、とバイデン氏は確信していて、それが自身で再出馬する理由の1つになっていると説明した。

この元高官は「バイデン氏がハリス氏を無能と思っていたなら、副大統領候補にはしなかっただろう。しかし(ハリス氏が)一貫して難局に対処できるのかという疑問はある」と述べた。

2020年8月のロイター/イプソス調査を振り返ると、バイデン氏がハリス氏を副大統領候補に指名した時点では、ハリス氏の人気は女性、若者、あるいは一部共和党員の間でバイデン氏よりも高かったことが分かる。

ところが副大統領就任後は、リアルクリアポリティクスの調査で示された支持率は39%と、バイデン氏の42.3%に及ばない。

ホワイトハウスで働いた経験者を含む何人かの民主党員は、ハリス氏が重要な政治問題に積極的に取り組まないことや、自身の立場をうまく利用したり、同氏やバイデン氏にとって今後の選挙戦でさらされそうな批判に対して先手を打って対策を講じたりしない点に失望感を表明した。

それでもバイデン氏がハリス氏を副大統領候補から外せば、重要な有権者の票を失う恐れがある。先の元高官は「黒人女性初の副大統領を替えることなどできない」と語り、女性や黒人を引きつけるためにもバイデン氏にとって彼女は必要だと強調した。

ある民主党員は、バイデン氏がハリス氏と「一蓮托生」で進むしかない状況でどうやってうまく対処していくかは、まさに戦略上の根本的課題の1つだと指摘した。

<力量発揮のチャンス>

もちろん民主党内には、次期大統領選でハリス氏が力量を発揮できるチャンスは巡ってくるとの見方もある。

ハリス氏に期待されているのは、女性やマイノリティーなど、副大統領として関係を築いてきた有権者層に対する熱心な選挙運動だ。

民主党ストラテジストのリズ・スミス氏は「次期選挙はハリス氏が輝く瞬間になり得る」と述べ、ハリス氏が最も本領を発揮できるのは元検察官という土俵に戻って理路整然と政策を主張する時で、民主党が24年に勝利するにはそうした理論武装が不可欠だと付け加えた。

ハリス氏の側近や支持者らによると、同氏はバイデン政権の掲げる政策を大きく前進させる役割を果たしてきた。訴えてきたのは女性の生殖に関する権利の擁護や中小企業支援、気候変動対策で、いずれも次期大統領選の争点になるとみられる。

近く退任するウォルシュ労働長官は「ハリス氏の仕事は政権に託された政策を実行する道筋を確保することであり、とても成功している。残念ながらそれに値する評価を国民から得ているとは思えない」と述べた。

<分かれる評価>

元下院議員で大統領上級顧問も務めたセドリック・リッチモンド氏は「バイデン氏とハリス氏は素晴らしい関係にある。バイデン氏はハリス氏のことを良く分かっている。人々は2人を常に過小評価し、2人はいつもそれが間違いだと証明してきている」と話す。

リッチモンド氏に、政権内でハリス氏を副大統領候補から外すことが議論されたかどうか質問すると「完全にノーだ」と一蹴した。

ハリス氏は、クレイン前大統領首席補佐官と毎週会っていた上、クレイン氏の後を継いだザイエンツ現首席補佐官とも定期的に面会しているほか、ダン大統領上級顧問とも良好な関係にある。この3人は全てバイデン氏の重要な側近だ。

政権発足当初から新型コロナウイルス対策の陣頭指揮を執って名を上げたザイエンツ氏はハリス氏について、ワクチン配布の面で人種や民族間の公平性を推進する旗振り役になったと称賛している。

一方でホワイトハウスに勤務する複数の人物は、ハリス氏の政策への関与は物足りないとの見方を示した。

別の元ホワイトハウス高官は「バイデン氏がハリス氏に責任ある仕事を任せられると考えているとは思わない」と率直に語り、重要案件では「混乱を招く恐れ」のためハリス氏にあまりかかわらせない状況になっていると続けた。

<中絶規制反対で存在感>

これに反論するのはハリス氏と親しい人々で、人工妊娠中絶規制に反対する取り組みでハリス氏の人柄と適切な動きがバイデン氏の負担を軽くしたという。

3人目の元ホワイトハウス高官は「中絶問題でバイデン氏の立場は明確だ。(しかし)ハリス氏ができるようなやり方で話をするのは難しかったと思う」と解説した。

実際にバイデン氏は、昨年11月の中間選挙で民主党が予想外の健闘を見せた後、中絶問題におけるハリス氏の仕事ぶりを称賛。ある側近は「彼女は初めからこの問題が国民にとって重大な意味を持つと知っていた」と指摘した。

そして中間選挙でハリス氏の正しさは証明された。あらゆる政治信条を持つ有権者が州レベルでの中絶の権利保護に前向きなことが分かり、これが民主党側に圧倒的有利に働いた。

ハリス氏は、バイデン氏から託された中米諸国からの不法移民流入対策の面では、共和党から批判を浴びている。メキシコから国境を越えて米国に入ってくる不法移民が一向に減らないからだ。

ただハリス氏に親しい人々は、同氏の管轄はあくまで中米からの移民問題であり、国境全般の安全保障ではないと弁護。3人目の元ホワイトハウス高官は、メキシコ国境からの不法移民全体を減らす仕事は別の専門チームに委ねられていると主張している。

(Jeff Mason記者、Nandita Bose記者)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮が戦略巡航ミサイル、「超大型弾頭」試験 国営

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中