ニュース速報
ビジネス

焦点:権勢振るうトランプ氏に「インフレ退治」の壁

2026年01月16日(金)18時26分

写真は1月13日、米ミシガン州ディアボーンの自動車工場を訪問するトランプ米大統領。REUTERS/Evelyn Hockstein

Tim ‍Reid Howard Schneider Nandita Bose

[ワシントン 16日 ロイター] - トランプ米大統領は就任後‌、強大な大統領権限を一段と拡充させてきた。だがそのトランプ氏にも、権限の限界を思い知らされた分野が存在する。物価と生活費の速やかな引き下げだ。

トランプ氏は大統領選で有権者が最も懸念していた物価高について大胆な対策を約束していた。ところが‌実際に就任すると「物価抑制は口で言うよりず​っと難しい」という、歴代大統領が学んだ教訓を改めてかみしめなければならなかった。インフレは大統領の強大な権限には何ら影響されず、トランプ氏が得意とする脅しによって屈服させるのも不可能だからだ。

政治的に重要な議会中間選挙まで残り10カ月となった今、トランプ氏の経済運営に対する有権者の不満は高まりつつある。物価高止まりへの有権者の怒りは、与党共和党が上下両院を支配する構図を突き崩してもおかしくない情勢だ。

11─12日に実施し‌たロイター/イプソス世論調査では、トランプ氏の経済運営を肯定的に評価した割合は約36%だった。過去最低だった昨年12月時点の33%からやや持ち直したとはいえ、2期目就任当初の42%を大きく下回っている。

ホワイトハウスはこの数日、大衆受けする生活費対策を矢継ぎ早に打ち出している。

トランプ氏はクレジットカード金利に10%の上限を設けることを提案し、大手機関投資家による一戸建て住宅の購入を禁止すると表明。さらに住宅ローン金利引き下げに向けて、ファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)とフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)に2000億ドル相当の住宅ローン担保証券(MBS)を買うよう指示している。

またトランプ氏はしきりに自身の経済的な成果をアピールするが、エコノミストや政治ストラテジストは、足元でこのような対策が出てくることは、政権が政治的な危機にあると理解している証拠だと指摘する。さらに、一連の提案が今から中間選挙までに生活費に大き​な影響を与える公算は乏しく、一部は逆効果になりかねないとの指摘もある。

共和党のストラテジスト、チャ⁠ーリー・ジェロー氏は「大統領が魔法の杖で一夜にして経済を変えることはできない。インフレの下振れは、トランプ氏や国民の期待には程‍遠い状態だ」と述べた。

インフレを退治したいトランプ氏や側近にとって主な足かせは、米国経済の巨大さにある、というのが専門家の見方だ。30兆ドルというその規模の前では、物価を下げたいという大統領の野心は、市場の力や数億人の消費者や企業の決定に太刀打ちできないことが多い。

複数のストラテジストは、トランプ氏が物価引き下げに注力する姿勢を示そうとする際に、経済は強固で「アフォーダビリティー(手頃な値段で買えること)」問題は民主党のでっち上げだと主張することで、せっ‍かくの取り組みを台無しにしてしまうケースが多々ある、とみている。

トランプ氏は12日にも中西部ミシガン州デトロイトで‍「経済成長‌は爆発的で生産性はうなぎ上り、投資は活況、所得は増えている。インフレは打ち負かされた」と強弁した。

だ‍が2025年12月の消費者物価指数(CPI)は、食品と家賃が主導する形で上昇し、雇用の伸びは停滞している。

<経済より外交優先に不満も>

トランプ氏が最近提示した経済対策について、ロイターが取材した12人のエコノミストや銀行関係者の半数が生活費押し下げの効果に懐疑的な見方を示した。

例えばクレジットカード金利に上限が設定されれば、銀行は低所得層向けの与信を止める公算が大きいという。

西部カリフォルニア州サンディエゴで零細企業などへの融資を手がけるカーディフのウィリアム・スターン最高経営責任⁠者(CEO)は「(金利上限の)狙いは勤労者層支援かもしれないが、現実は彼らの借り入れ機会を奪うことになる」と警告する。

大手機関投資家による一戸建て住宅購入禁止も、投資家の大半が小規模な買い手である以上、それほどの効果は見込めない。

不⁠動産データを提供するコタリティの主席エコノミスト、トム・マローン氏は「‍投資需要が減れば新規建設の動きが鈍り、家賃が上昇しかねない」と述べた。

またトランプ氏の経済対策についてペンシルベニア大学ウォートン校の非常勤教授(金融論)でクリーブランド地区連銀総裁を務めたロレッタ・メスター氏は「政権は多くの人が感じているアフォーダビリティー問題に取り組もう​と関心は示している。しかし彼らには一貫性がないように見える」と評した。

事情に詳しい3人の関係者の話では、最近のトランプ氏が経済よりも外交にかなりの注意を向けている点に政権内部や共和党議員からは不満の声も出ている。

以前にトランプ氏を批判してきた共和党系コンサルタントのジェーソン・ケーブル・ロー氏は「トランプ氏は国際舞台である程度の成功を収めている一方、米国内の経済状況は政治的にはずっと危うくなっている」と語った。

ロイター
Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ブルガリア大統領、総選挙実施を発表 組閣行き詰まる

ワールド

プーチン氏がイラン大統領と電話会談、地域の緊張緩和

ビジネス

インド規制当局、取引決済の新方式提案 海外投資家の

ワールド

中国とカナダ、関税引き下げで合意 戦略的協力推進へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑について野次られ「中指を立てる」!
  • 2
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 5
    イランの体制転換は秒読み? イラン国民が「打倒ハ…
  • 6
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 7
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 8
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 9
    日中関係悪化は日本の経済、企業にどれほどの影響を…
  • 10
    イランの大規模デモ弾圧を可能にした中国の監視技術─…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 4
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 7
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 8
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 9
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 10
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中