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アングル:フォードのEV撤退、政策転換と需要減の二重苦で 

2025年12月18日(木)10時08分

米フォード・モーターのジム・ファーリー最高経営責任者(CEO)は15日、ミシガン州のデザインスタジオを歩いていた。写真は、米フォードの電動ピックアップトラック工場の様子。2021年9月、米ミシガン州のディアボーンで撮影(2025年 ロイター/Rebecca Cook)

Nora Eckert

[デトロイト 16日 ロイター] - 米フォード・モーターのジム・ファーリー最高経営責任者(CEO)は15日、ミシガン州のデザインスタジオを歩いていた。考えていたのは、EV(電気自動車)開発につぎ込んだ時間の重さだ。米国の車づくりを変えられる──そう信じて進めてきた計画を、いま自分の判断で止めようとしている。数千時間の仕事が、振り出しに戻る。

ほどなく同社は、電池で走る複数の車種を打ち切り、EV関連資産で195億ドル(約3兆0250億円)の評価損を計上すると発表した。トランプ米大統領による大規模な自動車政策の変更が、すでに冷え込みつつあったEV需要に追い打ちをかけていた中で、業界最大の「EV撤退」となる。

ファーリー氏はこれまで何年も、テスラや中国の主要EVメーカーに追いつくことは「存亡をかけた闘い」だと社員や投資家に語ってきた。だが今、同氏は「生き残りの道は、採算の合わない車種を捨てることにある」と言う。フォードは2023年以降、EVで約130億ドルの損失を出してきた。

「もうけにならないものに資金を振り向けるわけにはいかない」。ファーリー氏は15日、ロイターにそう語った。「私があの製品をどれほど好きでも、米国の顧客はその製品を買わない。そこで終わりだ」

ファーリー氏の苦悩は、トランプ政権がEV補助を打ち切り、排ガス規制を緩めたことで、業界の経営者が一斉に突きつけられたジレンマそのものだ。

多くの自動車メーカーは今、米国ではEVを採算に乗せて大量に売ることができない。一方で中国、欧州などでは、規制当局への対応や、世界へ勢いを広げる中国メーカーとの競争のため、EVを売らざるを得ない。

結果としてフォードをはじめ各社は、地域ごとに大きく異なる車種を用意しなければならないという難題を抱え込んだ。これは、近年のグローバル化で業界が「もう過去のものにした」とするやり方に改めてコストを上乗せする。これまでは、ほぼ同じ車を共通のサプライチェーンでつくり、世界に売った。約15年前、当時のCEOだったアラン・ムラーリー氏は、この戦略を「ワン・フォード」と呼んだ。

いまファーリー氏に必要なのは「たくさんのフォード」だ。同社や他社は、地域差に合わせるためのコスト増を吸収するため、提携へと傾いている。ルノーとフォードは今月、欧州向けの手頃な価格のEVを共同でつくると発表した。

提携発表後、15日には当初計画していたEV商用バンを中国市場向けに生産しないことを発表した。また、フォードはEVプラットフォーム技術の提供元として中国のパートナーを探しているとロイターは報じている。

ファーリー氏の狙いは、ほとんどのEV車種を打ち切る一方で、27年に投入予定の3万ドルの中型電動トラックだけは残す、という綱渡りだ。カリフォルニア州の専門チーム「スカンクワークス」が開発を担い、テスラや中国のBYD<002594.SZ>といったEVの強豪に対抗するという。

「中国勢などと競うグローバル企業として、時間がない」。ファーリー氏はそう語った。

コンサルタントで、ゼネラル・モーターズ(GM)の元幹部として中国で長く働いたマイケル・ダン氏も、米自動車メーカーに残された選択肢は多くないとみる。米国内ではガソリン車のトラックで利益を稼ぐ。その一方で海外では、中国勢をはじめとするEVメーカーと競う。二つを同時にこなすほかない、という見立てだ。

「EVはなくならない」とダン氏は言う。「世界で戦うのか。それとも国内にとどまるのか」

<政府の支援で拡大>

米国のEV販売台数は、1台あたり7500ドルの消費者向け税額控除が9月30日に失効して以降、急減した。この税額控除は、トランプ氏が支持した法案によって廃止された。

こうした政策は、世界の他の2大市場と比べた米国の「EV後進性」を決定づけた。中国ではEVとプラグインハイブリッド車(PHV)が販売の約半分を占める。欧州でも約25%だ。トランプ政権の政策が効き始めた後、米国の販売比率は約5%へと沈んだ。

コックス・オートモーティブの業界インサイト担当ディレクター、ステファニー・バルデス・ストリーティ氏は、フォードの減損は、政府支援なしではEVの採算がなお成り立たないという「業界全体の認識」を反映していると述べた。

他社も同様に、厳しい採算に直面している。

GMは10月、EV計画を縮小し、16億ドルの費用計上を行った。さらに費用が増える可能性があるとも警告した。EV工場をガソリン車の生産拠点へと作り替える動きも進めている。シティグループのアナリストは、GMの費用計上は最終的にフォードより小さくなる見通しを示した。GMはEV販売でフォードを上回ったものの、なお数十億ドル規模の損失が続いているとアナリストは見ている。

GMはかつて、ガソリンと電気を組み合わせたハイブリッド車を「資本の無駄」と退け、米国向けに約12車種のEVをそろえてきた。販売は政策が変更される直前までは伸びていた。だがいま、GMの米国での最大級の競合相手であるフォードとトヨタは、ハイブリッド車へ大きく注力し、EV離れを進める消費者を捉えて販売を急速に伸ばしている。

フォードは多くのEV車種の生産を中止しつつも、30年までには世界販売台数の半分を、EV、ハイブリッド、あるいは「エクステンデッドレンジ」型EV(大型電池を小型のガソリンエンジンで充電する方式)にすると改めて掲げた。現時点で、これらの車種が占める比率は17%にとどまる。いまの消費者動向が続けば、その大半は充電プラグのないハイブリッドになる見通しだ。PHVよりも、はるかに多く売れている。

トヨタでは、ハイブリッドがすでに米国販売のほぼ半分を占める。近年、EVではなくハイブリッドにこだわったとして強い批判も浴びた。だが、フォード株を保有するエボルブETFsのエリオット・ジョンソン最高投資責任者(CIO)は、デトロイトの自動車大手がトヨタの後を追う判断に踏み切ったことを歓迎した。

「既存の自動車メーカーにとって、ハイブリッド車こそ未来だ」とジョンソン氏は述べ、充電の煩わしさなしに既存顧客を電動化へ移行させやすい点を挙げた。

ステランティスは、ハイブリッドに注力し、法人向けの社用車販売を優先することで米国シェアの回復を狙っている。フォルクスワーゲンは、独立したEV会社「スカウト」を切り出して電動市場に挑む一方、リビアンや中国EVメーカーの小鵬汽車(シャオペン)といった提携先の力も借り、ソフトウエア開発を進めている。

ロイターの取材に対し、ステランティスとフォルクスワーゲンの担当者はコメントを控えた。GMの広報担当者はPHVを提供する計画をすでに開示していると述べた。ホワイトハウス報道官は取材要請に応じなかった。

需要減と政策転換のどちらが大きいのか。今回の大きな判断に至った要因の重みについて問われたファーリー氏は、特定の要因に比重を置いて説明するのは難しいとした。「一つではない。実際にはそれらが組み合わさったものだ」

EV市場の苦境は以前から続いていたが、最近になって行動を迫る圧力が強まったという。「ここ数カ月で、チームにとってはっきりした。変えなければならない」

ロイター
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