アングル:「ハリー・ポッター」を見いだした編集者に聞く、児童書の魅力と責任
バリー・カニンガム氏(72・写真)は本に囲まれて育ったわけではない――どちらかというと、本を抱きしめて育った。写真は1日、英サマセット・フルームで撮影(2025年 ロイター/Sam Tabahriti)
Sam Tabahriti
[13日 ロイター] - バリー・カニンガム氏(72)は本に囲まれて育ったわけではない――どちらかというと、本を抱きしめて育った。戦後のロンドンで病弱だった子ども時代、彼は「虚栄の市」のベッキー・シャープや「宝島」のロング・ジョン・シルバーといった物語の世界に逃げ込み、慰めを見いだした。この読書への初期の愛情、つまり本能的で想像力に富み、極めて個人的な感情が、後に出版業界でのキャリアを形成することになる。
「ハリー・ポッターと賢者の石」の最初の出版社の責任者として最もよく知られるカニンガム氏だが、その影響力はホグワーツ魔法魔術学校をはるかに超える。彼は2000年にはチキンハウス社を設立し、子どもを豊かな感情を持つ目の肥えた読者として扱う物語を数多く世に送り出してきた。
英国西部のオフィスからロイターの取材に応じたカニンガム氏は、児童書に引かれた理由や、ハリー・ポッターのレガシー、年末の引退を前にこれからの夢について振り返ってくれた。
――子ども時代に影響を受けた本は
学校にいた頃、努力賞をもらった。何も受賞しないが、よく頑張る子に贈られる賞だ。努力賞として本の引換券をもらった。
店に行き、目に留まった「ホビットの冒険」を選んだ。すっかり夢中になり、ほかの多くの子どもと同じように、25回は読んだと思う。あれを気に入ったのは、ファンタジーで、想像力に富み、しかも面白かったからだ。ユーモアは児童書のとても重要な要素だ。特にこの国では、ユーモアを使って感情を深める。それが、「ハリー・ポッター」を買った理由のひとつでもある。
――ハリー・ポッターを初めて読んだ瞬間を覚えているか。また、そのあとの環境は変わったか
1994年、ブルームズベリー社の児童書部門は立ち上げられたばかりで、出版社トップのナイジェル・ニュートンは大きなリスクを負って私を担当に据えた。マーケティングは十分経験していたが、児童書の編集は初めてだった。「ハリー・ポッターと賢者の石」の原稿が机に届いた時、原稿はぴかぴかの手つかずではなかった。明らかに何人かの手を経た状態だった。自分が最初の読者ではなかったし、自分がJ・K・ローリングの最後の希望だったとは思いもしなかった。
その夜に原稿を読んだ。冒頭は「チョコレート工場の秘密」の作家、ロアルド・ダールを思い起こさせたが、強く印象に残ったのは友情の強さと、ハリーが自分や他人のために立ち上がる力だった。それは強烈だった。原稿は長く、タイトルも奇妙だったが、ためらわなかった。翌日、すぐにオファーを出した。金額は2000ポンドちょっとで、出版史上最も価値ある支出だったと言えるんじゃないだろうか。
一晩で爆発的ヒットになったわけではない。口コミでゆっくりと広がった。良い児童書は大抵、そうやって羽ばたいていくものだ。出版後まもなく娘の学校を訪れた時、上級生の女子が初版を手にしていた。感想を尋ねると、本を抱きしめて「大好き」と言った。その瞬間は、ずっと心に残っている。
ハリー・ポッターは自分の人生を変えた。チキンハウスという、児童書だけに専念する出版社を始める自由を与えてくれた。子どもの人生を永遠に変える本を出版することは、すべての出版社の夢だ。自分は幸運にもそれを実現できた。今も恐れ多い気持ちだ。
――12月31日にリタイアすると発表した。今後の予定は
皮肉なことに、もっと幅広く本を読みたいと思っている。本を読むことに何年も費やしてきたばかりなのに、今度は読書を楽しみにしているなんて……恐ろしいでしょう。ただ、もっと大人の本や、仕事とは関係のない本を読むのを楽しみにしている。読書がもたらす刺激が大好きだ。
また、若い作家たちともまだまだ一緒に仕事をしていきたい。そして、今よりも家族と一緒に過ごしたい。
――良い出版者の条件とは何だと思いますか?
作家に何を書くべきか指示するのは私の仕事ではないが、うまくいっていない部分を伝えるのは仕事だ。私の編集は「本当にこれを言いたいのか」「この視点から語ることが正しいだろうか」と問いかけることだ。
児童書では視点が非常に強力な道具だ。時には「この退屈な人間のキャラクターではなく、隅のネズミの視点で語ってみたら」と言うこともある。そうすると何が起きるか。作家の創造性を新しい高みに押し上げる質問をするのが仕事だ。だが、何を書くかを決めるのは作家だ。
出版の進化について言えば、児童書ははるかに力を持つようになった。それは部分的にハリー・ポッターのおかげだ。児童書で利益を出せるようになったからだ。また、ヤングアダルト市場の爆発的拡大もある。大人向けの本を読んでいた読者が、今や「ハンガー・ゲーム」「メイズ・ランナー」「トワイライト」などヤングアダルト作品を読むようになった。
彼らがその本に見いだしたのは、子どもの頃に感じたインスピレーションなのだろう。
――キャリアで最も誇りに思う瞬間は
「ハリー・ポッター」と言うと思っているだろうが、実際その通りだ。ハリー・ポッターのおかげで読書が再び「クールなこと」になった。でも、新人作家を支持したことも誇りに思っている。すべての作家が世界的な成功者になるわけではないが、才能を見いだせたことはうれしい。比較的少ない読者しかいなくても、その本が大きな意味を持つことはあるし、市場を築くこともできる。本には長い寿命がある。
――児童書に引かれた理由と、そして子どもを代表することの意味は
児童書で感じる読者と作家のつながりを、ペンギンブックスで大人向けの本を担当していたときは感じることはなかった。児童書の作家は、読者である子どもたちとのつながりを作るために出版社と協力し、チームとして仕事をするのが特徴的だと思う。大人の作家の場合、読者とのつながりはそこまでない。
子どもたちを代表するというのは、子どもたちの心に響く声を見つけることだ。私が仕事を始めた頃と今との大きな違いは、子どもたちにより敬意を払い、見下すことなく接するようになったことだ。
――社会と若者の心を形成する上で、児童書はどのような役割を果たしているか
私たちは最後の責任あるメディアだ。子どもに対して責任を持つ最後の存在だ。編集者として、成長に害を与えると私が考える児童書は通さない。
一般的に言えば、私たちは希望を扱っている。ロアルド・ダールの本には、「(いつも)勝つことはできないけれど、自分のために勝つことはできる」と書かれていることがある。常に敵を打ち負かすことはできないが、その困難な状況の中で自分らしく生きることはできる。「『小母(おば)』に従う」必要はない。
児童文学の未来は明るいと思う。子どもは発見を続ける。危険なのは――私が引退する理由のひとつでもあるが――子どもに追いつく方法を見つけなければならないことだ。子ども時代、彼らが何に関心を持ち、どんな感情が彼らを突き動かすのかについていかなければならない。今のように子ども時代が脅かされている世界では、それは難しい仕事だ。
だが、それでも「本を抱きしめる子どもたち」に会う。自分のところにやって来て、「あなたの本を1冊持っている」「この本が大好き」と言う小さな女の子や男の子に会う。そして、彼らが手にした本と、子ども時代の秘密の友人たちである児童書の作家と築く関係は、今も魔法のようで、壊れないものだと思う。
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