ニュース速報
ビジネス

焦点:トランプ政権の注目、FRBから10年債利回りに移る 政策の制約と認識

2025年02月07日(金)19時53分

トランプ米政権がにわかに長期国債利回りに注目し始めたことは、自らの経済政策を阻みかねない制約要因として神経をとがらせるようになったからかもしれない。写真は米ドル紙幣。2023年1月、パキスタンのペシャーワルで撮影(2025年 ロイター/Fayaz Aziz)

Howard Schneider

[ワシントン 6日 ロイター] - トランプ米政権がにわかに長期国債利回りに注目し始めたことは、自らの経済政策を阻みかねない制約要因として神経をとがらせるようになったからかもしれない。そのことは同時に、連邦準備理事会(FRB)が直接的な批判の矛先から外れることを意味する。

米10年物国債利回りは、12兆6000億ドル規模の米住宅ローン市場から5兆8000億ドル規模の企業向け銀行融資、ひいては政府自体の利払い負担に至るまで、あらゆる借り入れのコストに影響する。

FRBが昨年9月以降、短期の政策金利を1%ポイント引き下げたにもかかわらず、10年物国債利回りはその間に0.75%ポイント以上も上昇した。

FRB幹部らは、長期金利はFRBが十分にコントロールできるものではないとした上で、長短金利が政策金利から乖離(かいり)している理由を複数挙げている。多額の米財政赤字、物価目標を上回るインフレ率、新型コロナ禍後の世界的な金融環境のリセットなどだ。

しかし原因が何であれ、トランプ氏とベッセント財務長官の視線は、これまでトランプ氏がしばしば批判してきたFRBよりも今では10年物国債利回りの方に向けられているようだ。

ベッセント氏は5日、フォックス・ビジネスへのコメントで、トランプ大統領が金利低下を望むと言う時、それはFRBが設定する短期金利ではなく10年物国債利回りのことを指していると述べた。10年債利回りは、トランプ氏が就任した1月20日の前に4.8%を超えたが、足元では4.4%前後に下がり、昨秋からの急上昇が一部反転している。

エバーコアISIのクリシュナ・グハ副会長は、規制緩和が実施されるとの見通しに加え、ベセント氏が最近示した国債管理計画など、複数の要因が相まって利回り低下につながったのかもしれないと言う。

グハ氏は、10年物国債利回りに注目が向くことで「FRBと新政権の緊張は和らぐ」としながらも、同利回りの上昇がトランプ氏の経済政策案に及ぼす影響を考えれば、今後も金利上昇を抑制し続けることが極めて重要になると語った。

「ベッセント氏のメッセージは、彼が成すべき仕事は本質的には一つだという当社の見解と一致している。すなわち、10年債利回りが5%を突破するのを防ぐことだ。突破すれば株価も、住宅その他の金利に敏感なセクターも大幅下落し、『トランポノミクス』は崩壊すると当社は考える」とグハ氏はリポートに記している。

<イエレン氏の借り入れ計画を踏襲>

現在の10年物国債利回り、すなわち政府の借り入れコストは、第1次トランプ政権時を大幅に上回ったままだ。また2.5%前後の米経済成長率よりも高い。この比較は国債発行のダイナミクスと持続可能性を計る重要な指標となる。

ベッセント財務長官は、FRBが「大幅な利下げをしたが、10年債利回りは上昇した」と述べた。

ベッセント氏はまた「大統領は金利低下を望んでいる。(中略)彼との対話で、われわれは10年物国債利回りに注目した。彼はFRBに利下げを求めていない。彼は、われわれが(中略)経済の規制を緩和すれば、そして税制政策を実行し、エネルギー価格を下げれば、金利もドルも自ずとあるべき水準に落ち着くと信じている」と語った。

トランプ氏は実際2日、FRBが1月29日に金利を据え置いたのは適切だったとの考えを示した。パウエルFRB議長と対立してきたトランプ氏としては異例の支持発言だ。

これはまた、トランプ氏が1期目とは異なる経済環境、異なる制約に直面していることを、少なくとも暗に認めた発言だと言えるかもしれない。10年物国債利回りは1期目当初に2%強で、その後トランプ氏を怒らせたFRBの利上げに反応して上昇した。

FRBの政策金利は長期金利に影響を及ぼすことを意図している。その影響は、金融政策の効果を経済全体に波及させる重要な経路であり、インフレ率にも影響する。

しかしその波及のスピードと程度は、FRBにはほぼコントロールできない。

シカゴ地区連銀のグールズビー総裁は6日、トランプ政権の最近の金利に関する発言はFRBに向けられたものではなく、実体経済により直接的に影響を与える一連の資金調達コストについて述べたものだと解釈していると述べた。

ベッセント長官は今のところ自身が直面する制約を認めているようで、イエレン前長官の時とほぼ同じ割合で短期債と長期債を組み合わせた国債発行を行っている。ベッセント氏はかつて、イエレン氏が用いた割合を批判していた。

ベッセント氏は、長期債の割合を増やすことが望ましいとしながらも、昨年11月の米紙ウォールストリート・ジャーナルの記事では、より長期国債の発行を増やそうとすれば「長期金利が上昇する可能性があり、巧みな対応が必要となる」とも認めている。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米CB景気先行指数、8月は予想上回る0.5%低下 

ワールド

イスラエル、レバノン南部のヒズボラ拠点を空爆

ワールド

米英首脳、両国間の投資拡大を歓迎 「特別な関係」の

ワールド

トランプ氏、パレスチナ国家承認巡り「英と見解相違」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中