ニュース速報

ビジネス

焦点:国内生損保、日米金利上昇でも国債投資に慎重 YCCも影響

2016年11月25日(金)19時15分

 11月25日、世界的に金利が上昇するなか、国内の主要生損保が日本国債や米国債への投資に慎重な姿勢を示している。トランプ米次期大統領の具体的な政策が不明ということもあるが、日米ともに実質的な利回りがまだ低いことも大きい。日銀本店、1日撮影(2016年 ロイター/Kim Kyung-Hoon )

[東京 25日 ロイター] - 世界的に金利が上昇するなか、国内の主要生損保が日本国債や米国債への投資に慎重な姿勢を示している。トランプ米次期大統領の具体的な政策が不明ということもあるが、日米ともに実質的な利回りがまだ低いことも大きい。

金利の跳ね上がりを防ぐ日銀のイールドカーブコントロール(YCC)に対しても、複雑な胸の内をのぞかせている。

<ヘッジコストが悩みの種>

トランプ氏の米大統領選勝利を受け、米金利が急上昇。国内生損保は前月の資産運用計画発表時より米国債への投資を増やすとの見方も出ていたが、中間決算発表の席上では、慎重な声が相次いだ。

日本生命の児島一裕常務執行役員は「今年度はヘッジ付外債の比率を高めてきたが、下期以降、ヘッジコストの上昇もあり、ヘッジのつけはずしを含め、機動的に対応していきたい」と述べた。

為替ヘッジ付きの米国債は、低金利で運用が難しくなった日本国債の「代替品」として重宝されてきたが、ヘッジコストが夏場にかけて急上昇。9月末には3カ月間のヘッジコストを勘案すると10年米国債購入時の利回りがついにマイナスになってしまった。

10年米国債利回りが大統領選前の1.7%台から2.4%台に上昇したことで、ヘッジコストを差し引いてもプラスの利回りが確保できる水準となっている。しかし、生損保の運用担当者を悩ませているのは、米金利上昇に並行して為替ヘッジコストも上昇していることだ。

足元で、3カ月物のヘッジコストは1.85%程度に上昇。10年米国債の実質利回りは0.5%強となる。流動性を考えれば、米国債は他国の国債よりも依然として魅力的だ。しかし、1%以下の利回りを、短期間で10%程度も変動する為替リスクを抱えてまで取りに行くかは、判断が分かれるところだ。

<変わらぬ運用多様化>

11月13日―11月19日の対外及び対内証券売買契約等の状況 (指定報告機関ベース)によると、国内勢の対外中長期債投資は2606億円の売り越しとなった。

大統領選前の週(10月30日─11月5日)が6053億円の買い越しだったのに対し、選挙当日(8日)を含んだ週(11月6日─12日)は4662億円の買い越しと減少。そして今週は売り越しに転じてしまった。

米金利上昇の原動力となっているのは、トランプ次期大統領が掲げる財政拡張政策による米経済回復期待や米国債増発懸念、インフレなどへの思惑だ。しかし、いまだ具体的な政策は明らかになっていないことから、金利上昇が継続するかは、いましばらく見極めが必要との見方が生損保の決算会見でも多かった。

米国債への投資は、為替ヘッジを付けないオープン投資という選択肢もある。円高に反転してしまえば評価損が出るが、足元の「トランプ相場」による円安が続くとみれば、リターンの大きな投資になる。

明治安田生命の荒谷雅夫常務執行役は、ヘッジ付き米国債への投資について「ヘッジコスト控除後の出来上がりの収益は魅力的になっている」としながらも、「為替が動くので機動的に対応していきたい」と述べる。

こうしたなか、生損保の資産運用においては、投資先の多様化を進めてく方針に変わりはなく、社債などへの投資に意欲を見せるバイサイドも多い。「海外クレジット(社債)市場は日本の15倍以上の規模がある。直近では10年国債と比べても、為替のヘッジ後でも1%程度高い利回りを享受することができる魅力的な資産」と日生の児島氏は話す。

<依然低すぎる円債利回り>

一方、日本国債の金利も米国債に主導される形で上昇しているが、決算発表の席では投資には依然慎重な声が多かった。

25日時点で、10年債金利は0.03%。ヘッジ付き米国債の利回り0.5%前後よりも低い。20年債で0.475%、30年債でようやく0.6%だ。長期間保有しなければいけないというデュレーションコストを考えると、超長期国債に相対的な魅力があるとは言いくい。

日銀は、10年国債金利をゼロ%程度で推移させるYCCを導入。先日は「指し値オペ」を初めて実行した。米金利が急上昇する一方で、日本の金利上昇が抑制気味であるため、日米金利差は拡大。円安材料となり、日本株も上昇している。

住友生命の古河久人執行役常務は日銀のYCCについて「金利の急上昇を抑えるという意味では日本経済にプラス」としながらも、日本国債の金利については満足する水準ではないと指摘。日本国債に投資を行うめどとして、30年債で1%の利回りをあげている。

「トランプ相場」に沸く金融市場だが、国内バイサイドからは「足元の状況で投資判断をコロコロ変えることはせず、できるだけ分散したポートフォリオを組んでいくことを清々と行っていきたい」(東京海上ホールディングス<8766.T>の藤田裕一常務)と慎重な声が聞こえてくる。

(伊賀大記 編集:石田仁志)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中