リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと

思わぬミスにより核兵器が使用されてしまう可能性は今もある(10月12日、広島の原爆ドーム前) Kim Kyung-HoonーREUTERS
<日本被団協がノーベル平和賞を受賞することが決まった。「恐怖の均衡」による核戦争抑止を支持してきたリアリストである元CIA工作員の筆者は、理想主義を貫いてきたこの団体の受賞を意外にも評価している。なぜか>
私は、20世紀の冷戦期に外交政策に携わった現実主義者のほとんどがそうであるように、核による「恐怖の均衡」の考え方を──一見すると倒錯した発想にも思えるかもしれないが──信奉してきた。
この理論のおかげで、アメリカとソ連の双方が核兵器で相手に壊滅的なダメージを与えられる反撃能力を擁するという状況の下、共に自国の存続を最優先にして合理的に行動してきた結果、両国が直接戦火を交えて第3次世界大戦に発展する事態が避けられた。
実際、核兵器はこれまで80年間、アメリカとソ連、そのほかの保有国、そしてその同盟国が他国から軍事攻撃を受けることを抑止する手だてになってきた。被爆国である日本の歴代政権がアメリカの「核の傘」を受け入れてきた理由もこの点にある。
しかし、世界には現実主義だけでなく、理想主義も不可欠だ。理想主義のない世界は、血も涙もないパワーだけが大手を振ってまかり通るようになる。
そうした理想主義を掲げてきた団体の1つが、広島と長崎の被爆者でつくる「日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)」だ。この団体は「人類は私たちの犠牲と苦難をまたふたたび繰り返してはなりません」と宣言し、70年近くの間、核兵器の廃絶を訴えてきた。
その日本被団協がノーベル平和賞を受賞することになった。「核兵器のない世界を実現するために努力し、核兵器が二度と使われてはならないことを当事者の証言により示してきた」ことが授賞理由である。
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