コラム

写真の修正について再び

2009年11月11日(水)14時58分

写真フィルムは楽譜だが、プリントされた写真は演奏だ――アンセル・アダムス(写真家)

 写真の世界において、現実を操作することは現実を描写するのと同じくらい長い歴史をもつ。アメリカの南北戦争で遺体を並び変えたマシュー・ブレイディやアレクサンダー・ガードナーと同じことを、世界トップレベルの写真家たちがルワンダで行った。ロイターとロサンゼルス・タイムズ紙のカメラマンがレバノンとイラクでコンピューターを使って修正を行ったように、あのユージン・スミスも何枚ものネガを暗室で組み合わせて写真をでっち上げた。

 スミスの名は、人道主義的な写真に対して毎年贈られる奨学金に冠され、その母体となるユージン・スミス・メモリアル基金の理事会には写真業界の多くの大物が名を連ねる。その一方で、レバノンにおける写真を修整したとして契約を打ち切られたロイターのカメラマン、アドナン・ハッジの例がある。

 確かにハッジの写真は、スミスには遠く及ばない。それでも私は、なぜ写真界はハッジ(および同じように写真に手を加えた人々)を攻撃しながらスミスのことは賞賛し続け、彼がときどき暗室で真実を捏造していたという事実を無視するのか疑問に思う。

 何人もの著名な写真家が、何年にも渡って写真を作り上げ、そのおかげで現在の地位を築いた人もいることはフォトジャーナリズム界の公然の秘密だ。だが世間の人々が知っているのは、見破られるほど出来の悪い写真を作ったハッジや、すでに亡くなり厳しい評価にさらされずに済んでいるスミスのようなケースだけだ。

 前回紹介したフランス国民議会の法案が提案するように、写真家が根本から作り変えた写真はそのように明記されるべきだ。ニュース写真も、加工済みとの注釈を入れてみてはどうだろう?

 どんな写真もある程度は人を欺くものだ。加えられたものより、取り除かれたものの方が大切なことも多い。そして長い間多くの写真家が使用してきたコダクロームやトライXといったフィルムで撮られた写真も、デジタルカメラで撮られたものと同様、現実そのものではない。

 しかし世間は写真家が思う以上に賢明だ。彼らは創作や芸術的な演出の価値を理解している。だとしても、真実を描写したのではなく作り手の想像力が生み出した作品を見るときには、それが加工されたものだと警告を受ける必要があるだろう。

プロフィール

ゲイリー・ナイト

1964年、イギリス生まれ。Newsweek誌契約フォトグラファー。写真エージェンシー「セブン(VII)」の共同創設者。季刊誌「ディスパッチズ(Dispatches)」のエディター兼アートディレクターでもある。カンボジアの「アンコール写真祭」を創設したり、08年には世界報道写真コンテストの審査員長を務めたりするなど、報道写真界で最も影響力のある1人。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ノーベル生理学・医学賞、マイクロRNA発見のアンブ

ビジネス

ゴールドマン、S&P500種株価指数の年末・12カ

ビジネス

ユーロ圏投資家センチメント、10月は-13.8 4

ワールド

東南アジアの犯罪組織、テレグラムを多用 国連が報告
MAGAZINE
特集:大谷の偉業
特集:大谷の偉業
2024年10月 8日号(10/ 1発売)

ドジャース地区優勝と初の「50-50」を達成した大谷翔平をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティアラが織りなす「感傷的な物語」
  • 2
    借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」の中国が世界から見捨てられる
  • 3
    2匹の巨大ヘビが激しく闘う様子を撮影...意外な「決闘」方法に「現実はこう」「想像と違う」の声
  • 4
    新NISAで人気「オルカン」の、実は高いリスク。投資…
  • 5
    キャサリン妃も着用したティアラをソフィー妃も...「…
  • 6
    「核兵器を除く世界最強の爆弾」 ハルキウ州での「巨…
  • 7
    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…
  • 8
    常勝軍団の家族秘話...大谷翔平のチームメイトたちが…
  • 9
    羽生結弦がいま「能登に伝えたい」思い...被災地支援…
  • 10
    もう「あの頃」に戻れない? 英ウィリアム皇太子とヘ…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はどこに
  • 3
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティアラが織りなす「感傷的な物語」
  • 4
    借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」…
  • 5
    アラスカ上空でロシア軍機がF16の後方死角からパッシ…
  • 6
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 7
    【独占インタビュー】ロバーツ監督が目撃、大谷翔平…
  • 8
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 9
    NewJeansミンジが涙目 夢をかなえた彼女を待ってい…
  • 10
    羽生結弦がいま「能登に伝えたい」思い...被災地支援…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 3
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 4
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 5
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 6
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 7
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 8
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 9
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 10
    キャサリン妃の「外交ファッション」は圧倒的存在感.…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story