コラム

ヒト以外の哺乳類にも、妊娠期間中に「つわりに似た変化」が生じることが明らかに メカニズム解明で期待できること

2026年03月30日(月)18時05分

つわりは、ホルモンの種類や量が急激に変化することが主な原因と考えられていますが、詳細はまだ明らかになっていません。ビタミン類の不足や血糖の変化も関わっている可能性も示唆されています。そのため、つわりのような症状がみられる動物を見つけて集団を観察すれば、発生メカニズムやつわりを起こしやすい個体の特徴の解明に役立ち、ヒトへの応用も期待できます。

これまでもイヌやアカゲザルにおいて、妊娠初期につわりのような症状は報告されたことがありました。けれど、イヌの例では摂食量の減少や嘔吐が見られたり、アカゲザルでは摂食拒否の頻度の増加が観察されたりしたものの、その個体に固有の変化だったり単発の現象だったりする可能性が否定できませんでした。

動物モデルによって「つわりに似た症状の研究」をするためには、集団に体系的な科学的調査を行い、この変化はヒトの妊娠の特定の段階に対応するのか、体重減少等のより重篤な症状へと進行するのかなどを調べる必要があります。

体重、摂食量、運動量などをモニタリング

今回、研究グループは広く用いられている実験動物である小型霊長類のコモンマーモセット(マーモセット)とげっ歯類のマウスで、妊娠に関連した代謝と行動の変化を体系的に調査しました。つわりでよく見られる「吐き気」や「嘔吐」を直接評価することは困難であるため、代わりに体重、摂食量、運動量などをモニタリングしました。

マーモセットについては、2つの異なる研究室(K研究室:母体6匹、妊娠27回、N研究室:母体14匹、妊娠88回)の妊娠個体の体重を、分娩前150~1日まで収集しました。

体重変化についてクラスター分析すると、多くの妊娠では妊娠経過に伴い体重が増加する一方で、約22%の妊娠において胎盤形成期に一時的な体重減少が認められました。これは、ヒトでつわりが見られる胎盤形成期と同時期にマーモセットでも体重が減少する個体が一定数見られた、ということです。

さらに、複数回妊娠したマーモセットについて分析すると、何度も体重減少を繰り返す個体と、滅多に体重減少を起こさない個体に分かれました。つまり、体重減少の起こしやすさには個体によってバリエーションが見られました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB、政策調整でためらいや先回りはせず=レーン専

ワールド

ロシア、経済スパイ理由に外交官追放 英外務省反発

ワールド

高市首相、赤沢氏を重要物資安定確保担当相に任命 対

ワールド

スペイン、米軍機の領空通過を拒否 対イラン攻撃で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 2
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 3
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカートニー」を再評価する傑作映画『マン・オン・ザ・ラン』
  • 4
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 5
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 6
    【銘柄】東京電力にNTT、JT...物価高とイラン情勢に…
  • 7
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 8
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 4
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story