コラム

太陽公転周期に変化が...NASAの「小惑星に宇宙船をぶつけて軌道を変える実験」がまた一つ「宇宙の法則」を明らかにした可能性

2026年03月18日(水)22時30分

DARTは「宇宙船(探査機)を目標小惑星に対して高速で衝突させることで、その小惑星の軌道を人為的に変更できるか」を実証するミッションです。16年にPDCO(Planetary Defense Coordination Office、地球防衛調整局)を新設したNASAは、「キネティック・インパクト(意図的な衝突による小惑星の軌道変更)」の技術実証の場として、ターゲットに地球近傍小惑星(地球に接近する軌道を持つ小惑星)のディディモス(Didymos)を周回するディモルフォス(Dimorphos)を選びました。

直径約780メートルのディディモスと直径約170メートルのディモルフォスは、地球と月のような関係ですが、「二重小惑星(共通重心の周りを回る2つの星)」としても知られています。両者の太陽からの距離は地球とほぼ同じから約2倍まで変化し、約770日周期で太陽を周回しています。

DARTの探査機は21年11月24日に打ち上げられ、22年9月26日に秒速約6キロでディモルフォスに衝突しました。このことにより、ディモルフォスがディディモスを周回する時間は、もとの11時間55分から約33分15秒も短縮されたことが、実験から2週間後に確認されました。

つまり、太陽、地球、月の関係になぞらえると、①実験直後は、宇宙船を月にぶつけたら、月の軌道がずれて地球を周回する時間が短縮されたことが分かった、②今回の研究で、月と地球の関係だけでなく、地球(地球を周回する月も含む)が太陽を回る時間も影響を受け、短縮されたことが分かった、ということになります。

「小惑星が恒星を横切る現象」で二重小惑星系の軌道を解析

今回、研究チームは、太陽に対する二重小惑星系の軌道変化を測定するために「小惑星が恒星を横切る現象」に着目しました。つまり、ディディモスとディモルフォスの二重小惑星が夜空で光る星を通過する時に、その星の光がわずかに遮られることを利用して、DART計画後の現在の二重小惑星系の軌道を解析しました。

とはいえ、いわば太陽が月に隠される「日食」の極々小さいバージョンです。研究チームは「何月何日何時に、この星で二重小惑星の通過が見られるはずだ」と計算したうえで、世界中の研究者や天文愛好家に協力を要請して観測してもらいました。

その結果、22年10月~25年3月の間に計22回の観測に成功、DART後に小惑星系の太陽公転周期が約0.15秒短くなり、公転軌道の軌道長半径(楕円軌道の長軸半径)は約360メートル短縮されたことが明らかになりました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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