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ほぼ光速のジェット噴流が中性子星の衝突で形成されていた...ハッブル望遠鏡が捉える

2022年11月1日(火)18時48分
青葉やまと

衝突する2つの中性子星のイメージ credit: Elizabeth Wheatley (STScI)

<中性子星同士の大規模な衝突によって生じたジェットを、NASAのハッブル宇宙望遠鏡が捉えた。高密度の連星中性子星が衝突し、膨大な量のエネルギーを放出した......>

中性子星同士の大規模な衝突によって生じたジェットを、NASAのハッブル宇宙望遠鏡が捉えた。NASAの発表によると、その速度は光速の99.97%に達したという。

爆発現象自体は、2017年8月に観測されたものだ。世界各地の天文台や宇宙望遠鏡など計70の観測拠点において、重力波および電磁波がいっせいに検出された。この事象には、重力波イベントGW170817の名称が与えられている。

重力波と電磁波の発生源として、天体の合体イベントが発生したと推定されている。天文現象を検知する手がかりとなる重力波などをメッセージと呼ぶが、この2種のメッセージによって中性子星同士の合体が観測されたのは、今例が初であった。

NASAは、時とともに変化する宇宙の姿を追う「時間領域天文学・マルチメッセンジャー天体物理学」と呼ばれる比較的新しい分野における、「重大なブレイクスルー」であったとしている。

ほぼ光速で宇宙を駆けるジェット噴流

検出から2日後、ハッブル宇宙望遠鏡が爆発源の方向へ向けられ、より詳細な観測が実施された。爆発源から放出されているジェットの速度を算出したところ、光速の99.97%に達していることが判明した。

ハッブルによる観測を追う形で、爆発から75日後および230日後には、アメリカ国立科学財団に協力する複数の電波望遠鏡からVLBIによるデータが収集された。VLBIは超長基線電波干渉法を意味し、100km以上互いに離れた地点にある複数の電波望遠鏡で同時に観測を行うことで、より解像度の高いデータを得る手法だ。

重力波が初めて検出されたのは2017年だったが、ハッブルとVLBIによるデータを統合し、事象の全体像を把握するまでにおよそ5年間を要した。NASAは慎重な分析により、重力波の発生源の位置を天球上に極めて高い精度で特定することに成功したと発表している。

>>■■【動画】ほぼ光速で宇宙を駆けるジェット噴流...ハッブル望遠鏡が捉える


ペアの中性子星同士が衝突

本件で衝突・合体した中性子星とは、巨大な星が超新星爆発を遂げた後に残る天体だ。極めて密度が高く、直径20キロほどのサイズに太陽の質量を上回る物質が詰まっている。

GW170817の衝突では、この中性子星が互いに引力を及ぼしながらペアになったもの(すなわち連星中性子星)が相互に衝突した。衝突により、超新星爆発並みのエネルギーが宇宙空間に放出されたと考えられている。

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