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この映画を見て腹が立つなら自問したほうがいい。黒人と白人の友情が直面した現実

Oakland Raiders

2019年08月30日(金)18時20分
アンナ・メンタ

1年後、『ハミルトン』はブロードウェイで記録破りのヒットを放ち、ディグスはトニー賞助演男優賞に輝いた。

17年2月、黒人の同性愛を描いた映画『ムーンライト』がアカデミー賞作品賞を受賞すると、カザルは酔っぱらいながらカルダーにメールを送信。自分たちも『ムーンライト』(のようなアカデミー賞作品)を作れたはずなのにと嘆いた。

カルダーはすぐに企画を再始動させた。「(ドナルド・)トランプ(米大統領)のアメリカが始まったばかりで、僕たちはインスパイアされた」と、カザルは言う。ディグスとカザルは共同脚本とプロデューサーにも名を連ね、カザルは友人のカルロス・ロペス・エストラーダを監督に起用した。

新進気鋭のスターになっていたディグスには新しいマネジメントチームが付いており、脚本を2カ月で大幅に書き直すことを条件に参加することになった。ただ、ディグスはテレビや映画の仕事で忙しく、書き直しはカザルに託された。

【参考記事】ホモフォビア(同性愛嫌悪)とアメリカ:映画『ムーンライト』

基本的な筋書きは変わっていない。重罪犯として服役し出所した黒人のコリン(ディグス) は、保護観察期間の残り3日を無事に過ごすことだけを考えていた。親友で白人のマイルズ(カザル)は短気なトラブルメーカーだ。白人警官が黒人を射殺するところを目撃したコリンは黙っていようとするが、心の中で何かがくすぶり続け──。

書き直したのは射殺事件の余波の広がり方だと、カザルは言う。「10年の間に反応が大きく変化した。脚本を書き始めた当時は、そうした出来事が起きればデモが始まったが、今は何も起きない」

「抗議運動の勢いを持続させることは難しい」と、ディグスは言う。「いろいろなことが変わるだろうと思っていたが、変わらなかった」

大規模な抗議運動のシーンはカットした。「事件によって影響を受けたのはコリンだけで、町を挙げての反応はない。そして、黒人の犠牲者が重罪犯だったという噂が広まると、抗議するに値しない人間だということになる」

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2人は念願の主演映画を10年越しで完成させた ©2018 OAKLAND MOVING PICTURES LLC ALL RIGHTS RESERVED

地元民とよそ者の敵意

ベイエリアはITバブルに沸き、かつて黒人とラテン系の町だったオークランドも高級住宅地化している。コリンもマイルズも流行の先端を追う若い金持ちの「ヒップスター」を苦々しく思っているが、マイルズは特に憤慨していた。自分も彼らと同じ肌の色だが、仲間ではないことを証明しようと必死だった。

2人はITオタクの引っ越し祝いのパーティーに参加する。しかしマイルズが顔にパンチを見舞った相手は、パーティーのホストではなく、文化の盗用をとがめたオークランド生まれの黒人だった。

現在はロサンゼルスに住むカザルは言う。「帰省すると、地元民とされる人と、よそ者とされる人の間に敵意が燃え上がっている。『される』と言うのは、誰も確認はしていないから。人種だけを頼りに、地元民かよそ者かを判断している」

ディグスは『ハミルトン』に出演中、マンハッタン北部のワシントン・ハイツに住んでいた。移民を中心とするヒスパニック系が多いエリアだが、近年は家賃が高騰している。

「僕がスペイン語を話さないことに、周りが失望していた。自分が加わる前から繁栄していて、自分が去った後も続くコミュニティーで、少しでもその一員になるにはどうすればいいか。僕自身、学ぶ機会になった」

「僕たちは誰かをわざと怒らせるつもりはない。でも(この映画を見て)腹が立つなら、それはどうしてなのか、自分に聞いてみるべきかもしれない」

BLINDSPOTTING
『ブラインドスポッティング』

監督/カルロス・ロペス・エストラーダ 主演/ダビード・ディグス、ラファエル・カザル
日本公開は8月30日



※9月3日号(8月27日発売)は、台湾、香港、次はどこか 「中国電脳攻撃」
特集です。台湾地方選を操作し、香港デモにも干渉した中国サイバー集団によるSNS攻撃の手口とは? そして、彼らが次に狙うターゲットは? 一帯一路構想とともに世界進出を狙う中国民間軍事会社についてもリポートします。

[2019年9月 3日号掲載]

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