最新記事

アート

相次ぐ環境活動家による名画襲撃 温暖化啓蒙より美術品保険のインフレもたらす

2022年12月5日(月)11時40分

保険料が来年から急上昇

世界の美術品保険市場の保険料収入は約7億5000万ドル。保険料率は2020年と21年に約5%上がった。今年は横ばいだが、保険会社は上昇を予想する。

気候変動への抗議行動とは関係なく、地球温暖化に関連した火災や洪水の発生が増え、来年の保険料は高くなりそうだという。

インフレも保険料上昇に追い打ちをかけている。

アクサで美術品の引き受け部門を統括するジェニファー・シプフ氏は、保険会社のリスクを保証する再保険会社が来年1月1日の契約更新時に保険料率を引き上げ、美術品市場にも影響が及ぶ可能性があると指摘した。

保険会社やブローカーによると、これまでのところ美術品攻撃による保険金の請求は発生していない。レオポルド美術館の保険契約の詳細は不明だが、ナショナル・ギャラリーの永久収蔵品のリスクは英国政府が負担していると広報担当者が説明した。

主要な美術館は損害が発生した場合、商業的な保険で保険金を請求せず、資金的な保証を政府に依存する場合が多い。

だが、商業ベースで運営する美術館や画廊は美術品保険に加入しており、米国の大規模美術館は欧州よりも保険の利用が一般的だ。

近年はテロや襲撃に対する懸念から、作品がガラス張りになり、警備員や手荷物検査が強化されたこともあって、保険料は安定的に推移していた。

一部の保険会社も警戒を強めており、ある保険会社はガラス張りの作品しか保険を受けないと明かした。

ロイターの取材に応じた保険会社5社は、気候変動による影響をまだ保険料に織り込んでいないと回答した。しかし、既にコスト増に直面しているという作家もいる。

ドイツの芸術家、ANTOINETTEの代理人を務めるトーマス・ハンペル氏によると、ANTOINETTE氏の作品をカバーする保険料の上昇率はこの3年間は3─5%に収まっていたが、来年は12.5%に急上昇する。

また、大きな作品を安全に展示するための追加費用は、輸送や組み立てに加え、100平方メートルの反射防止ガラスの設置など3万5000ユーロ(3万6417ドル)にも達する。ハンペル氏は「こんな追加コストは払えない」と話した。

(Carolyn Cohn記者、Noor Zainab Hussain記者、Barbara Lewis記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:屋台販売で稼ぐ中国の高級ホテル、デフレ下

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 4
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中