コラム

人種分断と銃蔓延に苦悩するアメリカ

2016年07月12日(火)15時00分

Carlo Allegri-REUTERRS

<ダラスの警官銃撃事件でさらに複雑化するアメリカの人種問題。その背景には、黒人コミュニティと白人警官のコミュニケーション上の問題や、銃が蔓延する社会での警察活動の困難さなどがある>

 ここ数年、アメリカでは「白人警官による黒人射殺」の事件が頻発し、その結果として人種分断とも言える緊張した状況が続いています。

 発端は2014年8月にミズーリ州ファーガソンで発生した黒人青年射殺事件で、その白人警官が不起訴となったことで暴動が発生しました。同じ年には、ニューヨークのスタッテン島で起きた「白人警官による黒人密売人の絞殺事件」に関する不起訴処分があり、抗議行動が拡大しました。

 昨年4月には、メリーランド州のボルティモアで警察に拘束された黒人青年が死亡し、この青年の葬儀をきっかけに暴動が発生しています。

 その後、この種の事件は沈静化していたのですが、まず先週5日にルイジアナ州のバトンルージュで、また翌日6日にはミネソタ州のセントポール郊外で、同様の事件が発生しました。

 要するに、通常の「確保行動」や「交通取り締まり」において、白人警官が「身の危険」を感じ、その場で一方的に黒人男性を射殺するという事件が2日続けて起きてしまったのです。2つの事件ともに一部始終が動画で記録され、SNSやテレビを通じて拡散されました。

【参考記事】白人が作った「自由と平等の国」で黒人として生きるということ

 さらに翌日7日には、2つの事件に対する抗議が平和的なデモとして行われていたテキサス州のダラスで、いきなりプロ級のスナイパーが登場して狙撃を開始し、白人警官が狙い撃ちにされて5人が虐殺されるという衝撃的な事件が起きました。

 ダラスの事件では、狙撃犯が駐車場ビルに立てこもり、ネゴシエーター(交渉人)の説得にも応じなかったばかりか、ビルに多くの爆発物を仕掛けたという脅迫をしてきたため、ダラス警察は無人車両(ロボット)を使って狙撃犯を爆殺するという緊急対応に出ています。犯人のアフリカ系男性は、アフガニスタン戦線で戦った経験がある退役軍人でした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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