Picture Power

【ガイ・ティリム特別寄稿】 写真で伝えるということ

Guaranteed Future

Photographs by Guy Tillim

【ガイ・ティリム特別寄稿】 写真で伝えるということ

Guaranteed Future

Photographs by Guy Tillim

‘Congo Democratic 2006’ 06年に行われたコンゴ(旧ザイール)の大統領選を追ったシリーズ。写真家ガイ・ティリムはジョセフ・カビラ大統領の対抗馬として出馬したジャンピエール・ベンバ本人ではなく、彼を空港で出迎える支持者の姿を切り取ることで選挙戦の本質を伝えようとした。

 これらの写真で何を伝えたいのか? 正直、私にも分からない。1枚1枚についてその文脈を説明して回ることもできる。だがそれをしたら、写真を見る人のさまざまな解釈の仕方に制限を課してしまうことになるだろう。写真の面白さを文字で表現することはできない。それは音楽に近いと言えるだろう。頭で考えるよりも心で感じるものなのだ。写真というものは、見る人にステレオタイプを植えつけてしまうことがよくある。だから、いい写真とはある意味で、そうした固定観念に抵抗している1枚だろう。

 撮るのは簡単だ。だがその写真が世界で自分が体験したことを深く伝えていないとしたら、意味がない。本当は繊細で深みがあり、曖昧さも秘めている世界での体験なのに、私がこうあってほしいと思う単純なイメージとして伝わってしまう。そんな表面的な側面しか見せていない、実際の体験をそのまま伝えていない写真には、面白味がない。曖昧なままのイメージでもいいではないか。明確な主張などいらない。写真の解釈の仕方は人それぞれ違っていていいのだ。

 常に核心を突く、または挑発的な作品で、見る人の心を揺さぶる写真を撮るフォトグラファーがいるとしよう。彼には喝采が浴びせられている一方で、「ステレオタイプの運び屋」「クリシェの売人」といった批判の声もあるだろう。だが本当に問題視すべきなのは、私たちが彼を評価することによって、無意識に自分の弱さを隠そうとしていることだ。私たちは安易に偏見に陥ってしまう自分の弱さの責任を、彼に押しつけている。

 写真が歴史の目撃者になり得るという事実を否定するつもりはない。だが過去の経験を記録しておく手段として写真が最適であるとは思えない。私の子供時代の記憶は夢のようにぼんやりしている。私の幼少期の写真を誰かに見せたところで、その人が追体験することも難しいだろう。確かに、こうした子供時代の写真から、過去に存在していたものや起きた事象を知ることはできる。だが写真として残されたイメージは、霧に包まれた遠い過去から導かれるフィクションの世界へと、私たちをいざなうにすぎない。

 写真はもともと偏りのない中立的なものである、あるいはそうあるべきだ。見る側に主観があったとしても、客観的なイメージを提示して解釈の幅を持たせることが、写真の目的だ。写真に偏りがあるとしたら、それは被写体のほうにあるべきで、見る側や撮る側にあってはならない。だから私はシャッターを切るときはいつも、被写体となっている世界からこんな問いを突き付けられていると肝に銘じている。
「私という人間を、そしてこの世界を、まっさらな目でちゃんと見てほしい」
ここに掲載した作品が、そうした写真の見方への第一歩となってくれることを願う。

ガイ・ティリム (写真家)
1962年、南アフリカのヨハネスブルク生まれ。86年から報道写真家として活動を始め、ロイター通信、AFPなどに勤めた。ライカ・オスカー・バルナック賞をはじめ多くの著名な写真賞を受賞。近年は美術館やギャラリーで作品を発表している。本作は約10年の作品をまとめた新刊写真集「オ・フツロ・セルト(保証された未来)」(独シュタイドル社刊)からの抜粋。書名はMPLA(アンゴラ解放人民運動)党の政治スローガン
Photographs from "O Futuro Certo." (Steidl) by Guy Tillim

関連リンク:"写真集"O Futuro Certo." (Steidl)

(2015年3月10日号「ピクチャー・パワー」にガイ・ティリムから寄せられた原稿の全文です)


【お知らせ】

『TEN YEARS OF PICTURE POWER 写真の力』

PPbook.jpg本誌に連載中の写真で世界を伝える「Picture Power」が、お陰様で連載10年を迎え1冊の本になりました。厳選した傑作25作品と、10年間に掲載した全482本の記録です。

スタンリー・グリーン/ ゲイリー・ナイト/パオロ・ペレグリン/本城直季/マーカス・ブリースデール/カイ・ウィーデンホッファー/クリス・ホンドロス/新井 卓/ティム・ヘザーリントン/リチャード・モス/岡原功祐/ゲーリー・コロナド/アリクサンドラ・ファツィーナ/ジム・ゴールドバーグ/Q・サカマキ/東川哲也/シャノン・ジェンセン/マーティン・ローマー/ギヨーム・エルボ/ジェローム・ディレイ/アンドルー・テスタ/パオロ・ウッズ/レアケ・ポッセルト/ダイナ・リトブスキー/ガイ・マーチン

新聞、ラジオ、写真誌などでも取り上げていただき、好評発売中です。


MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 2
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 3
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命防衛隊と消耗戦に
  • 4
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 5
    キッチンスポンジ使用の思いがけない環境負荷...マイ…
  • 6
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 7
    アメリカとイランが2週間の停戦で合意...ホルムズ海…
  • 8
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 9
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 10
    【後編】BTS再始動、3年9カ月の沈黙を経て──変わる音…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 4
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 5
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 9
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 10
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中