コラム

NYタイムズがウィキリークス連載を「突然中止」は誤報?

2010年12月09日(木)21時55分

 昨日発売の本誌12月15日号は、ニューヨーク・タイムズがウィキリークス関連の報道で米政府の「助っ人」の役割を果たし、「メディアとしての責任と独立性を放棄した」と報じたばかり(「報道の自由を捨て去ったNYタイムズの失態」)。そんななか今度は読売が、ニューヨーク・タイムズが外交公電についての連載記事を突然「中止した」と報じた。

「突然中止」の理由について、読売はニューヨーク・タイムズが「米政府などの意向に応じた可能性を示唆した」と書いた。ニューヨーク・タイムズの連載が「8日付けは停止」と報じた日経は、「紙面で理由は明らかにしていないが、(ウィキリークス創設者ジュリアン・アサンジの)逮捕を受け自主的に規制したもようだ」と推測している。

 つまり、ニューヨーク・タイムズがとうとう政府の圧力に屈して「ウィキリークス報道を自粛」――そういうニュアンスだ。このニュースに「ニューヨーク・タイムズも落ちるところまで落ちたな」と思いながらも、「まさかそこまで?」とにわかには信じられず、ことの次第を調べてみた。

 どうやら、「突然中止」とも言えなそうだ。

 ニューヨーク・タイムズ電子版は、ウィキリークスが入手した外交公電に関する報道を開始した11月28日の翌日の29日に、「連載記事は9日間続く」と宣言していた。

11月29日付けニューヨーク・タイムズ電子版から引用:


In addition to a nine-day series of articles on the trove of documents, The Times plans to publish on its Web site the text of about 100 of the cables -- some edited and some in full -- that illuminate aspects of United States foreign policy.


 12月7日付けの同紙電子版のブログには、「ニューヨーク・タイムズの9日間に渡る外交公電についての連載は、月曜(12月6日)夜に終了した」と書かれている。

12月7日付けニューヨーク・タイムズ電子版のブログから引用:


The final installment in a 9-day New York Times series on the cables concluded on Monday night, but documents continue to be published by WikiLeaks and other news organizations.


 電子版での連載を開始した11月28日から12月6日までを数えると、ちょうど9日間だ(紙面での連載は29日から7日まで)。つまり、ニューヨーク・タイムズは「突然」ではなく、「予定どおり」連載を終了したのではないか。

 たしかに、連載終了はアサンジ逮捕の直後というタイミング。しかも、12月7日付けのブログには、この日にジョセフ・リーバーマン上院議員がウィキリークスだけではなくニューヨーク・タイムズについても、諜報法に違反した容疑で調査すべきだと息巻いたという報道がある(これはこれで、特筆すべきニュースだが)。同紙に米政府から圧力がかかったことは事実だろう。だが、ニューヨーク・タイムズが「政府の圧力に屈して連載を突然中止した」という推測は、行き過ぎだったと言えそうだ。

注:ニューヨーク・タイムズ電子版の該当記事へのリンクを張ると、ログインサイトが表示されるため、該当記事のタイトルを表記することにします。検索してみてください。

■11月29日付けニューヨーク・タイムズ電子版:"Answers to Readers' Questions About State's Secrets" 2パラグラフ目

■12月7日付けニューヨーク・タイムズ電子版:"Updates on Leak of U.S. Cables, Day 10" 冒頭

――編集部・小暮聡子
 

 
 

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大統領が中国挑発しないよう助言との事実ない=日米

ビジネス

中国万科、社債が約50%急落 償還延期要請

ワールド

香港高層住宅群で大規模火災、55人死亡・279人不

ビジネス

再送-第一生命HD、30年度の利益目標水準引き上げ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story