コラム

中国が日本に「都市化」を学ぼうとしているが、ちょっと待ってほしい

2018年04月04日(水)17時48分

TwilightShow-iStock.

<中国の経済改革のキーワード「都市化」。農村から都市に今以上に人を移転させようとしているが、この点では日本を見習ってもらいたくない>

こんにちは、新宿案内人の李小牧です。

アメリカとの「貿易戦争」なんて言葉も飛び交うが、中国経済は堅調なようだ。その中国で、経済改革のキーワードの1つとして「都市化」が挙げられている。3月の全国人民代表大会で李克強首相が政府活動報告を行ったが、そこでも都市化が取り上げられた。

曰く、2013年からの5年間で8000万人あまりが農村住民から都市住民となり、都市化比率は52.6%から58.5%に向上した。2018年はさらに1300万人を農村から都市へと移転させる――といった内容だ。

これを見て分かるとおり、中国において都市化は良いこととして捉えられている。理屈は単純だ。農民よりも都市民のほうが生産性が高いため、農村から都市に移住すればそれだけGDPが向上するというわけだ。

でも、本当にそれほど単純な話だろうか。

「東京は人口集中で経済発展している」というが

中国の都市化問題におけるイデオローグの1人、東京経済大学教授で雲河都市研究院院長の周牧之は、昨年9月16日、揚子江都市圏発展計画国際諮問会議において、人口集約と都市化の重要性について発言している。

「東京を例に挙げよう。都市化の波にさらされる中、東京のDID(人口集中地区)人口比率は98%に達した。東京都市圏の人口密度は世界トップだ。大規模な人口集中により経済的特色も生まれた。経済規模が大きく、多様性に富み、政治・商業・研究という各種機能が一体となることでシナジーを生み、効率を上げている。人口集中地帯の長所とは、すなわち人口密度が低い地域では生まれ得ないサービス業や知識経済が発展すること。つまり集積の経済が起きるのだ」

確かに、都市では農村にはないさまざまな経済活動が起こる。この30年間、新宿・歌舞伎町で暮らしてきた私が最もよく理解している世界だ。

1つところに人が集まれば、そこに出会いがあり、交流があり、さまざまなアイデアとビジネスが生まれていく。そして、ついでに疲れた心を癒すための夜の経済も発展し、歌舞伎町案内人の出番となる(笑)。

こうなると良いこと尽くめのようだが、見落としはないだろうか。私はこの十数年間、作家、コラムニスト、ジャーナリストとして日本全国を巡ってきた。福島や熊本の被災地や長野の農村など、いわゆる田舎も見てきた。その経験からいうと、東京一極集中の代償は大きい。

きらびやかな都市を少し離れると、疲れ果てた郊外都市が現れる。田舎に行けば行くほど経済の衰退は露わになる。田舎の犠牲の上に都市の繁栄が成り立っていることは一目瞭然だ。

私は日本を愛しているし、中国には日本の良い点を見習ってほしいと思っている。しかし、大都市集中の構造はむしろ、良い点というより問題点ではないだろうか。中国が見習うべき美徳ではないはずだ。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、総裁「状況は正しい方向」 利

ビジネス

FRB「市場との対話」、専門家は高評価 国民の信頼

ワールド

ロシア戦術核兵器の演習計画、プーチン氏「異例ではな

ワールド

英世論調査、労働党リード拡大 地方選惨敗の与党に3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 4

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 5

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 6

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 7

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 10

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story