ニュース速報
ワールド

〔マクロスコープ〕中東情勢の関連補助は「3カ月」、高市氏に忍び寄る財源払底の影

2026年04月06日(月)13時33分

都内の国会議事堂の前を歩く警備員。2025年10月17日撮影。REUTERS/Kim Kyung-Hoon

Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto

[東‌京 6日 ロイター] - 混迷する中東情勢を受けたエネルギー供給の見通しをめ‌ぐり、高市早苗首相は国民に冷静な対応を呼びかけ続けている。一方で、政府内には需要抑制​の必要性を訴える声も根強い。両者の方向性が一致しないのは、経済活動を優先する高市氏の強い意志があるからだ。ただ、政府関係者は補助金などの関連支出が3カ月ほどで底をつくと明か⁠す。強気な高市氏に「財源払底」の影が忍び寄ってい​る。

<「危機感をもって対応を」>

「未曽有の事態の長期化という危機感をもって対応をお願いする」。6日に開かれた参院予算委員会の集中審議は、高市氏の身内である自民党の阿達雅志議員からの厳しい指摘で始まった。

「時間軸を考慮したリスク評価が必要だ。大量の安い中東の石油を安い方法で運べる時代は終わった。補助金でカバーし続けるのは無理だ。金利上昇や円安でインフレが加速しかねない」。ホルムズ海峡をめぐる情勢不安の長期化を懸念して質問を重ねる阿達氏を、高市氏はじっと見つめた。

「日⁠本全体として必要となる量は確保されている。重要物資の需給や価格などについて足元の状況を把握しながら長期化も見据えてあらゆる可能性を排除せず臨機応変に対応する」。こう答弁した高市氏に、阿達氏は「長期化はもう避けられない状況だと思う。ぜひ危⁠機感をもって​対応いただきたい」と重ねて危機感をあらわにした。

<「経済冷やしてどうする」>

高市氏はこの間、国民に対して「安心」を訴え続けている。5日には自身のソーシャルメディア(SNS)で、不足が懸念される石油派生品のナフサについて、調達済みの製品と国内精製品に加え、ポリエチレンなどナフサ由来の化学製品も2カ月分の在庫があり、「少なくとも国内需要4カ月分を確保している」と強調。中東以外からのナフサ輸入量を倍増させることなどを挙げ「在庫期間は半年以上に伸びる」とした上で、「国民生活と経済活動に影響を生じることのないよう、安定供給の確保に全力で取り組んでまいります」とも説明した。

「経済を冷やしてどうするのか」。首相官邸に近い政府関係者は、ロイターの取材にこう述べた。⁠需要抑制のために国民に本格的な節電や行動制限を要請すれば経済を下押しする。こうした懸念が引き続き高市氏の‌念頭にあるという。

高市氏の発信について、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は内容が限定的で「詳細な分析はできない」とした⁠上で、高市氏⁠が石油の代替調達を進めていると発信していることを念頭に「米国からの代替調達は(3月の)日米首脳会談の成果で、ある程度可能に思われる」と話す。一方で、「米国は世界最大の石油産出国であると同時に消費国だ。いまの局面では輸出に消極的になる可能性がある」と指摘。「本当に日本がどの程度を輸入できるのか不透明な面がある」とも語った。

経済産業省は夏に向け、国民にエコ運転の推進などの省エネを呼びかける案を検討している。ただ、あくまで国民生活に影響を与えないよう強制力を伴わない「ナッジ(後押し)手法」にと‌どめる方向だ。自民の政務三役経験者は「エネルギー節約の方向に動き始めたことは評価できる」としつつ、「節約政策としては不十分な​ので、今後徐々に‌軌道修正する可能性があるだろう」と話す。

<「3カ月で⁠底をつく」>

ここに来て、政府内では財源への危機感が語られている。現在、​政府はレギュラーガソリン価格を全国平均で1リットル170円程度に抑えるべく石油元売り事業者に補助金を支出している。財源は基金と予備費を含めた1兆円超。近く成立を見込む2026年度当初予算の予備費を勘案すれば計2兆円余りとなる。

前出とは別の政府関係者は「現在のペースでガソリン補助を続ければ、月6000億円消費していく計算だ。3カ月で財源が底をつく」と焦りを隠さない。さらに重くのしかかるのが、猛暑になるとの予想もある夏の電気代だ。政府の補助が3月で終了し、4月使用分(5月請求分)以降の請求は上昇が見込まれる。「液化天然ガス(LNG)も高騰している。仮に高市氏が補助再開に乗り出せば、ガ‌ソリンと合わせて月9000億円くらいかかる可能性もある」と、この関係者はロイターの取材に述べた。

電気代の補助について、赤沢亮正経産相は6日の予算委で「現時点では原油やLNG価格の動向やエネルギー価格の変動が電気・ガス料金に与える影響を注視しながら必要な対応を行うと​いうことにしたい」と述べ、補助再開には慎重な姿勢を示した。

<「国債発行なら円⁠安進行」>

専門家は政府方針をどう見ているのか。農林中金総合研究所・理事研究員の南武志氏はエコ運転などの呼びかけについて「普通の日本人はすでに高いガソリンを節約するため、日常からエコ運転をしている。あまり効果は期待できないと思う」と指摘。「韓国や東南アジアは(公用車の利用制限など)需要抑制策を打ち出してい​る」とした上で、「いくら原油備蓄があるといっても、強く節約を呼びかける政策が必要だ」と話す。

ガソリン補助政策については「財源は夏にはなくなると言われているが、原油価格がいま以上に高騰すればもっと早く底をつく」とも説明。「高市政権のこれまでの政策的傾向から考えて、補助金を止めるとは考えにくい。国債発行によって補助を続ける公算が大きいのではないか。そうなれば、さらに円安が進む可能性がある」と述べた。

(鬼原民幸、竹本能文 グラフィックス作成:照井裕子 編集:橋本浩)

ロイター
Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

マスク氏、スペースXのIPO主幹事に自社AI利用を

ワールド

スロバキア首相、ロシア産石油への制裁解除主張 エネ

ワールド

ハマス軍事部門、イスラエルの第1段階合意履行前の武

ワールド

イタリア首相がサウジなど中東諸国歴訪、エネルギー供
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙の2大テーマでAI懸念を払拭できるか
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「攻撃的知能」を解剖する
  • 4
    トランプ、イランに合意期限「米東部時間6日午前10時…
  • 5
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 6
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 9
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 10
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 7
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 8
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 9
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 10
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中