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焦点:英BBC、「偏向報道」巡るトップ辞任で信頼性や経営体制にも激震

2025年11月11日(火)14時47分

写真はBBCのロゴ。11月10日、ロンドンで撮影。REUTERS/Jack Taylor

Kate Holton Paul Sandle Sam Tabahriti

[ロンドン 10日 ロイター] - 英BBC放送が9日、トランプ米大統領の演説を恣意的に編集したとされる件でティム・デイビー会長とニュース部門トップのデボラ・ターネス氏の辞任を発表したことを受け、公共放送としての信頼性や、経営のあり方といったより幅広い問題が厳しく問われる事態になっている。

デイビー氏らが辞任表明に追い込まれたきっかけは、英紙デイリー・テレグラフがBBC元顧問の作成した内部文書を入手し、そこでトランプ氏の演説や中東情勢、トランスジェンダーを巡る事案などについて編集上の「瑕疵」が指摘されていたと伝えたことだった。

折しも英政府がBBCの受信料制度見直しに乗り出している中で、トップ不在となったBBCは過去数十年で最大の危機に陥った形だ。

BBCの支持者でさえ、全てのテレビ所有者が支払いを負担し、BBCの大きな収入源となっている現在の受信料の仕組みは、視聴者がネットフリックスやユーチューブ、ソーシャルメディアでニュースと娯楽コンテンツを入手する時代にそぐわなくなってきたと認めている。

<信頼に傷>

野党保守党議員でかつてメディア担当相を務めたジョン・ウィッティングデール氏はロイターに「BBCが持つ最大の資産は信頼で、その名声は提供するニュースが不偏不党かつ客観的であり、適切な情報源を持ち、チェックを受けているという事実に基づいている。視聴者がもはやそれを信じられないとすれば、BBCにとっては極めて大きなダメージになる」と語った。

エンダーズ・アナリシス創業者のクレア・エンダーズ氏は、できるだけ速やかにBBCの新たなトップを任命し、受信料制度維持のために本来確保すべき信頼回復を急ぐべきだと提言する。

1922年に創設されたBBCは世界最古の報道機関の1つ。テレビとラジオを通じて現在42言語で放送され、世界最大規模の英語のニュースサイトも運営している。

<内部メモのリーク>

英デイリー・テレグラフ紙は先週、BBC元顧問マイケル・プレスコット氏が作成した内部メモの抜粋を公表した。

プレスコット氏のメモは、組織として左派寄りの偏向があらわになった編集上の問題点をリスト化。最も深刻な例として、昨年11月の米大統領選直前に放送したドキュメンタリー番組「パノラマ」が、トランプ氏の2つの演説を切り取ってつなぎ合わせ、あたかも同氏が2021年1月の連邦議会襲撃を直接扇動したように印象付けたと指摘した。

トランプ氏はBBCに法的措置を取ることを示唆している。トランプ氏の弁護士は、14日までに番組が撤回されない場合、少なくとも10億ドル以上の補償を求める訴訟を起こすと9日にBBCへ通知した。

BBCは10日、番組編集を巡って「判断の誤り」があったとの認識を示し、対応を検討中だとしている。

英紙サンデー・タイムズの元政治担当記者だったプレスコット氏はメモを作成した動機について、編集上の問題が露呈した際のBBC経営陣の行動に「絶望」したからだと明かす。

BBCのメディア担当記者と政治番組司会者の話では、内部メモを巡る報道への対応で、ニュース部門の幹部は謝罪を表明したがったが、理事会がこれを阻止したという。

BBCのシャー理事長は、理事会は謝罪を阻止しなかったが、対応を決める時間がほしかったと説明している。

シャー氏は、各理事はさまざまな意見を有し、活発な論争を行っているとしながらも、デイビー氏らの辞任を内部統率のための「クーデター」だったとする一部メディアの報道を「空想的だ」と明確に否定。トランプ氏の演説を巡る編集姿勢には謝罪しつつ、BBCニュースのDNAと文化は中立的で、各種世論調査からは英国民はどのメディアよりもBBCニュースを信頼していることが分かっていると強調した。

<右派勢力の攻撃>

ガーディアンやフィナンシャル・タイムズといった有力英紙の記者、また一部のBBC職員などは、今回の問題の背後にBBCに打撃を与えるための右派勢力による組織的な行動があったとの見方をしている。

元BBC幹部でエコノミストのダイアン・コイル氏はロイターに「公共放送の仕組みとBBCに政治的、商業的に敵対する人々が生み出した危機だ」と訴えた。

一方でガーディアン元編集者のアラン・ラスブリッジャー氏は、BBC理事の多くは金融ないし事業界出身者で、ジャーナリズムの分野で長く働いていたわけではない点に言及し、理事会自体が適切な編集判断をする十分な態勢になっていないと苦言を呈した。

<岐路に立つ受信料制度>

英政府は、BBCの受信料制度が持続可能か、またロイヤル・チャーター(BBCの法的・制度的枠組みを定めた基本文書)更新の一環として他の選択肢を検討すべきかどうかを点検する準備を進めている。

スターマー首相の報道官は、政府はBBCを支持していると述べ、組織的な偏向があるとの見方は否定した。

ただBBCの経営形態は多くの全国紙から長らく厳しい目を向けられており、ソーシャルメディアでは受信料制度に反対する声が出ている。

昨年は受信料支払い拒否が30万件に達し、BBCにとって約5000万ポンド(約101億円)の減収につながった。

ロイター
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